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ふと


温もった手に、カサ…と紙の感触がした。




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手元を見ると、ゆっくりと手を解いた相葉が、大野の手のひらにひとつ、細長い和紙を落とす。

薄い桃色の、短冊形の和紙に、何か書かれていた。



「それ、しょ…、えっとー、櫻井が。大野さんにって」





どきりとした。

比較的穏やかになっていた心が、波打つ。



櫻井と最後に顔を合わせた日の、心配そうにこちらを覗き込む顔と、手を振り払ったあとの、驚いた顔が、交互に頭の中に浮かんで



心の準備もできていないのに、窓からすうっと一筋吹いてきた風に、手のひらの和紙を飛ばされた。



「あっ」



声を上げたのは相葉だった。

やばい、というふうに、手のひらで顔を覆う。




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ふたつに折られた和紙が、ふわりと自然に開いてしまって…


蝶々か、花びらか、そのような美しいものを思わせる動きではらりと落ちた。


縦書きのそれは、きれいに、大野のほうを向いていた。




.





【秋まひる 柳の散るを

 口初むひとの 声や うつくし】





.





時間が止まったのかと思った。


風が止んだだけだった。






...





口初むひとの


声や



うつくし




.




この歌を、ほんとうにあの人が 詠んだのだとしたら




声や、うつくし。




そんなことがあるだろうか。




声は



だって、あの人にとっては





声、だなんて



それだけで絶望的なのに




なんで……




...




「大野さん」



畳に落ちた薄桃色の和紙を、相葉がサッと拾って、中身を見ないように目を細くしながら、器用にふたつに折り直した。


開いた和紙の上に並んでいる言葉を目にしたときから、大野のようすが変わったことに、相葉は気がついていて


とびきり辛いドラマを見た後のように、唇を震わせて何も言えなくなっている彼の手に、もう一度しっかりとその紙を握らせた。



「翔ちゃんはね、こっち側から歩いて4番目の橋のところに居るんじゃないかな。そこがお気に入りだから」



4番目の橋、と大野は頭の中で繰り返した。

2番目でも5番目でもなく、4番目の橋。



「そこに行く?」



大野の頭は、相葉に「?」と言われたら、こくりと頷くようになっている。

そうすれば、おおかたのことはスムーズに、いい方向に進むのだ。


少なくともこの場所においては。




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きんにく(プロフ) - イチさん» なんとー!そんなに大切に読んで頂けるなんて幸せすぎます。本当にありがとうございました。これからも頑張ります♪ (2021年1月18日 23時) (レス) id: 527827598f (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - もふもさん» こんな未熟な作品に涙などとてももったいないですが、嬉しいです^^そう言っていただけると頑張れます!ありがとうございました。 (2021年1月18日 23時) (レス) id: 527827598f (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - 律さん» 律さん、最後まで読んで頂いて本当にありがとうございます!心温まる最後にできていたのであればとてもとても嬉しいです♪ (2021年1月18日 23時) (レス) id: 527827598f (このIDを非表示/違反報告)
イチ(プロフ) - きんにくさん、こんばんは。最終回を読みたいのに、終わってしまうのがもったいなくて、ちょっと読んではやめを繰り返していました。毎回思いますが、きんにくさんの描く世界が美しすぎて、読んでいて幸せな気持ちになりました。ありがとうございました。 (2021年1月17日 21時) (レス) id: 9e72143338 (このIDを非表示/違反報告)
もふも - きんにくさん、完結ありがとうございます! きんにくさんのお話には毎回泣かされます(/ _ ; ) 心温まる場面が多くて、つい何度も読んでしまいます。素敵な作品ありがとうございました!これからも応援してます!!! (2021年1月17日 1時) (レス) id: f5de961c82 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きんにく | 作成日時:2021年1月2日 0時

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