検索窓
今日:1 hit、昨日:4 hit、合計:72,134 hit

ページ20

.



「なんで見送り、出てこなかったの?」



.



休憩室に寝転んでいた櫻井の頬を、相葉はぺちぺちと叩いた。

眠っているわけでは無かったらしく、櫻井はふっと目を開ける。


「おみおくり。来ればよかったのに」


つまらないCMを見るように、相葉の口元を眺めて



"べつに"



と言って、横向きに寝返りを打った。

そしてそのまま、頭もとにあったメモ用紙に、だらだらと文字を書く。



【手紙を書いて渡したから、良い】

「手紙?いつ渡したの?」

【あの人が知らないうちに】

「?」



相葉は、どういうこと?と尋ねようと櫻井の顔を覗き込んで、はっと顔色を変えた。

疲れたような櫻井の瞳が、どろりと、いつもと違う潤みをしていた。


前髪をよけて、触れた額に、少しの汗と火照るような温度。



「……熱が」



暖房が効き過ぎていて、部屋が異様に暖かかった。

それでも櫻井は、分厚いブランケットを胸まで上げてかけている。



「寒いの?」



目を合わせて言おうにも、両手を使って震えるしぐさをして尋ねても

櫻井はぼうっと、そばにあるメモ用紙を見つめて、ペンを握っているだけで、返事をしなかった。



「疲れちゃったのかなあ…」



呟いた声は、誰にも届かずに独り言になった。

しかし相葉は、それにはずいぶん慣れていた。


部屋の隅から毛布を取って来て、それを櫻井の身体に掛けた。


毛布の上から、とんと一度、ねぎらうように手を置いたら

ペンを握っている櫻井の右手が、熱に浮かされたように、覚束なく紙の上を滑った。




.





.




【ずっと 知りたいんだ】


【言葉ごときが 人を救うか】




.




.




ふっ、と苦しくて熱い息を 櫻井は吐いて、相葉は焦ってその肩をさすった。




言葉ごときが、


人を救うか。




言葉の力…そんな言葉が、相葉の頭に浮かぶ。

手に伝わる体温が、高すぎる。



(翔ちゃんが一番、あけすけに信じてると思ってたんだけどな…逆か……)



また、ひとりで考えすぎたのかもしれない。

知恵熱のような身体の不調を、櫻井はたびたび起こす。



「…翔ちゃんの言葉は…、魔法だよー……」



暖房が効き過ぎて、暑かった。


畳にゴロンと横になっている櫻井の、短い横髪を掻き上げながら

耳のふちを、撫でるように触ったら



【あの人にも、そうされた】



と、櫻井はメモ用紙の一番下に、力の抜けた文字で書いて




それから



気持ちよさそうに目を瞑り


すっと静かに、寝息を立てた。




.

陽→←会



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (316 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
369人がお気に入り

アイコン この作品を見ている人にオススメ

設定タグ:大野智 , , 大宮
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

きんにく(プロフ) - イチさん» なんとー!そんなに大切に読んで頂けるなんて幸せすぎます。本当にありがとうございました。これからも頑張ります♪ (2021年1月18日 23時) (レス) id: 527827598f (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - もふもさん» こんな未熟な作品に涙などとてももったいないですが、嬉しいです^^そう言っていただけると頑張れます!ありがとうございました。 (2021年1月18日 23時) (レス) id: 527827598f (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - 律さん» 律さん、最後まで読んで頂いて本当にありがとうございます!心温まる最後にできていたのであればとてもとても嬉しいです♪ (2021年1月18日 23時) (レス) id: 527827598f (このIDを非表示/違反報告)
イチ(プロフ) - きんにくさん、こんばんは。最終回を読みたいのに、終わってしまうのがもったいなくて、ちょっと読んではやめを繰り返していました。毎回思いますが、きんにくさんの描く世界が美しすぎて、読んでいて幸せな気持ちになりました。ありがとうございました。 (2021年1月17日 21時) (レス) id: 9e72143338 (このIDを非表示/違反報告)
もふも - きんにくさん、完結ありがとうございます! きんにくさんのお話には毎回泣かされます(/ _ ; ) 心温まる場面が多くて、つい何度も読んでしまいます。素敵な作品ありがとうございました!これからも応援してます!!! (2021年1月17日 1時) (レス) id: f5de961c82 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:きんにく | 作成日時:2021年1月2日 0時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。