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チェックアウト時刻の10分前にフロントに迎えに来た二宮は、まさに、長いこと車に乗っていたのだという香りをさせていた。




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「えっ、何?ちょっ……」



持っていた小さなボストンバッグ(驚くべきことに2週間の宿泊における彼の荷物)を、ぽとんと(それも中身は少なく軽いのである)床に落として



人目もはばからず、二宮の首に腕を巻くようにして飛びついたのは

他でもない大野であった。



「ちょっとヤメテよ…え、…ねえ、」



偶然にも、フロントに他の客が居ないことが幸いだったが、見送りに来ていた相葉は、あらあら、と口に手を当てる。



「大野さんてば」



二宮が引き剥がそうとすると、大野はさらに力を込めた。


ずず、と鼻をすする音が、二宮の耳元で聞こえて

それで、何かを考えるように空を見つめた彼は、しばらくしてから、大野の背に手を回して、とんとん、と2回だけ叩いた。



「あーあ……もう…50年会ってないとかじゃないんだからさあ……」



呆れたように言う二宮の、薄い肩に顔を埋めた大野は、その香りをひかえめに吸い込んだ。


城崎の、どこをどう探しても見つけられない香りだった。


少し広い車の、シートの香り。それに染み付いたコーヒーと、煙草。空き缶を灰皿にしてしまうような、無遠慮で、憩いのない香り。



好きでも嫌いでもないその香りが、懐かしかった。



都会のにおいだ、と大野は思った。


すこしばかり長い間、都会から離れていたのだという感じが、凄くする。


また自分は、この香りに帰ってゆくのだ。
望むか望まざるかは別として、ほとんど宿命的に、こちらがわに、自分は帰るようになっているのだ。




懐かしい。




懐かしくて、憎らしくて、愛おしくて



やっぱり少し、嫌いで



涙が出る。






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「あは……ホント、…仕方ないんだから…、…お世話かけましたでしょう?この人」





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二宮が、まったく呆れる、というように相葉を見て、しかしその目も若干、あかく潤んでいた。



その愛情と優しさの、なんと伝わりにくそうなこと。



伝わりにくさだけで言えば、大野とそんなに大差ないのではと思われた。


根本はまったく違うのに、結果的に似た者同士のようになっている二人だ…と、ふと感じたことが、案外、的を得ているように思えて



相葉は、さあ?というふうに、小さく肩をすくめて苦笑いをしておくに留めた。





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陰→←優



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きんにく(プロフ) - イチさん» なんとー!そんなに大切に読んで頂けるなんて幸せすぎます。本当にありがとうございました。これからも頑張ります♪ (2021年1月18日 23時) (レス) id: 527827598f (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - もふもさん» こんな未熟な作品に涙などとてももったいないですが、嬉しいです^^そう言っていただけると頑張れます!ありがとうございました。 (2021年1月18日 23時) (レス) id: 527827598f (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - 律さん» 律さん、最後まで読んで頂いて本当にありがとうございます!心温まる最後にできていたのであればとてもとても嬉しいです♪ (2021年1月18日 23時) (レス) id: 527827598f (このIDを非表示/違反報告)
イチ(プロフ) - きんにくさん、こんばんは。最終回を読みたいのに、終わってしまうのがもったいなくて、ちょっと読んではやめを繰り返していました。毎回思いますが、きんにくさんの描く世界が美しすぎて、読んでいて幸せな気持ちになりました。ありがとうございました。 (2021年1月17日 21時) (レス) id: 9e72143338 (このIDを非表示/違反報告)
もふも - きんにくさん、完結ありがとうございます! きんにくさんのお話には毎回泣かされます(/ _ ; ) 心温まる場面が多くて、つい何度も読んでしまいます。素敵な作品ありがとうございました!これからも応援してます!!! (2021年1月17日 1時) (レス) id: f5de961c82 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きんにく | 作成日時:2021年1月2日 0時

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