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【あなたはきっと、そうするなと言っても

 人のために涙や笑顔を使うと思うから】



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そこまで読んで顔を上げたら、櫻井は川のほうを見ていた。

枝の部分が多くなってしまった美しい木々が、夜風に触れて、秋の匂いをさせていた。



柳が散ってしまって枝が空っぽになったら、ここには雪が降るんだろうか、と大野は思う。

この橋も、道路も、宿の屋根も、白く埋まるんだろうか。

雪は、露天風呂では、どんなふうに、湯に熱されて溶けるんだろうか。



そんな城崎を見てみたいような気がした。

でももう、東京に帰らなければならなかった。



冬になったら、自分はもう、ここには居ないのだ。




【もしそれで、自分のほうが空っぽになって、

 どうしようもなかったら、また此処に来てください。

 たぶん、あなたが此処を忘れてしまうくらいまでは

 人も、景色も、言葉も…だいたいは変わらずに

 同じように、お迎えすることができると思います】





人も、景色も、言葉も


だいたいは、変わらずに。同じように。





----『本当はもっと…お腹いっぱいで、もうこれ以上ないくらい幸せになって、帰ってもらいたかったんです。いつも、誰でも、そうなってほしいって思ってるんです』





人が癒されに来る場所。

心を温めて、帰る場所。




「…ねえ」




顔を上げた大野は、小さく、櫻井を呼んでみた。


ずっと遠くの方を眺めている彼は、それに気付かないで、微量の風に前髪を揺らしている。



ぐんと手を伸ばして、着物の裾を引っ張ると、"ん?"と首を傾げる、その仕草が

【だいたいは変わらない】、優しいこの場所の、象徴に見えて。






東京に帰るのも、それはそれで悪くないかもしれないと



そう思ったから。





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「笑ってるみたいだね」





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月を指差して、そう言ってみた。



そうしたら、自分の頬も 自然に緩んで


誰のためでもない笑顔が、櫻井の大きな瞳に映る。




「笑ってるみたい」





櫻井は、意地悪そうに笑っている その月のほうを、チラリとも見ずに



大野の前にゆっくりとしゃがんで、



"ほんとうに"



と言った。






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きんにく(プロフ) - イチさん» なんとー!そんなに大切に読んで頂けるなんて幸せすぎます。本当にありがとうございました。これからも頑張ります♪ (2021年1月18日 23時) (レス) id: 527827598f (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - もふもさん» こんな未熟な作品に涙などとてももったいないですが、嬉しいです^^そう言っていただけると頑張れます!ありがとうございました。 (2021年1月18日 23時) (レス) id: 527827598f (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - 律さん» 律さん、最後まで読んで頂いて本当にありがとうございます!心温まる最後にできていたのであればとてもとても嬉しいです♪ (2021年1月18日 23時) (レス) id: 527827598f (このIDを非表示/違反報告)
イチ(プロフ) - きんにくさん、こんばんは。最終回を読みたいのに、終わってしまうのがもったいなくて、ちょっと読んではやめを繰り返していました。毎回思いますが、きんにくさんの描く世界が美しすぎて、読んでいて幸せな気持ちになりました。ありがとうございました。 (2021年1月17日 21時) (レス) id: 9e72143338 (このIDを非表示/違反報告)
もふも - きんにくさん、完結ありがとうございます! きんにくさんのお話には毎回泣かされます(/ _ ; ) 心温まる場面が多くて、つい何度も読んでしまいます。素敵な作品ありがとうございました!これからも応援してます!!! (2021年1月17日 1時) (レス) id: f5de961c82 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きんにく | 作成日時:2021年1月2日 0時

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