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酷く、長い悪夢を見た。



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自分の悲鳴で目を覚ました大野は、まず、その夢の内容を忘れることに努めた。

1から100までを、素早く数えることに集中したら、56の段階で、もうほとんど忘れてしまうことができた。夢は脆いのだ。


少しだけ震えの残る体を引きずって、汗を流すためのシャワーを浴びる。

新しい浴衣に袖を通したら、もうほとんど、立っている力もなくなっていた。


(寒い…)


ぺたんと、畳に座り込む。

窓から見えたのは、ふかい紺色で覆われた空と、寂しいオレンジの切れ端。


今が、朝なのか夜なのか、分からなかった。


どっちだろう…と思って、じっと見つめていると、ふかい紺色のほうがどんどんオレンジを飲み込んでいった。



(夜になるんだ)



じわじわと、海のほうまで暗くなっていくのを眺めていた。

やがて、そこが橙色に染まっていたことをすっかり忘れさせるような闇がやってきて、

闇が闇であることをすっかり忘れさせるような星が、きらきらと瞬き始めた。


その、普遍的な空のなりゆきが、ただただ大野の目に映った。


立ち上がろうにも、どこにも力が入らなかったので、そのまま、後ろにあった柱に背を預けて

窓の外を見ていた。




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相葉が食事を持って来たときも、大野は変わらずそこに居た。


「失礼します…」


部屋に上がった相葉は、大野がベッドから起きていることに驚いたが、それを態度には出さなかった。


部屋の隅に、朝、置いて行った朝食が、そのまま残っていた。


本来は2時間後に下げることになっていたのだが、いつでも手がつけられるように、ここ数日は夕方まで出しておくことにしたのだ。

それでも、出した食事は手つかずのまま、かたく冷めてしまうのだが、相葉は、それについては何も言及しないで、黙って盆を下げた。


「今日は晴れてたから。綺麗でしょう。三日月も」


冷めた朝食を下げて、温かな夕食を並べながら、相葉はチラリと大野を見上げた。



髪がすこし、濡れていて、頬に雫が落ちていた。



柱の壁に弱くしなだれて、窓のほうを見る横顔は、まるで無欲で、全てを手に入れてしまった、あるいは、なんにも手に入らないと悟ってしまった、というふうに、静謐だった。


無防備だったけれど、だれも寄せ付けなかった。


あれは人形だ、と言われても、ほとんどの人が信じてしまうのではないかと相葉は思った。


それほどに静かで、血の気がさっぱり無かった。



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明→←表



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きんにく(プロフ) - イチさん» なんとー!そんなに大切に読んで頂けるなんて幸せすぎます。本当にありがとうございました。これからも頑張ります♪ (2021年1月18日 23時) (レス) id: 527827598f (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - もふもさん» こんな未熟な作品に涙などとてももったいないですが、嬉しいです^^そう言っていただけると頑張れます!ありがとうございました。 (2021年1月18日 23時) (レス) id: 527827598f (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - 律さん» 律さん、最後まで読んで頂いて本当にありがとうございます!心温まる最後にできていたのであればとてもとても嬉しいです♪ (2021年1月18日 23時) (レス) id: 527827598f (このIDを非表示/違反報告)
イチ(プロフ) - きんにくさん、こんばんは。最終回を読みたいのに、終わってしまうのがもったいなくて、ちょっと読んではやめを繰り返していました。毎回思いますが、きんにくさんの描く世界が美しすぎて、読んでいて幸せな気持ちになりました。ありがとうございました。 (2021年1月17日 21時) (レス) id: 9e72143338 (このIDを非表示/違反報告)
もふも - きんにくさん、完結ありがとうございます! きんにくさんのお話には毎回泣かされます(/ _ ; ) 心温まる場面が多くて、つい何度も読んでしまいます。素敵な作品ありがとうございました!これからも応援してます!!! (2021年1月17日 1時) (レス) id: f5de961c82 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きんにく | 作成日時:2021年1月2日 0時

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