指導 ページ4
高らかに聞こえるは、あの快活な歌。
黒い隊服に身を包んだ彼らは、綺麗な列をなしたまま訓練場内を何度も周回している。
中には何人かナイーブも混ざっているようで、成熟した細胞に負けないようにと必死でその背中を追っている様が、いつみても微笑ましかった。
「おいてめぇら!!!んなダラダラやってっといつんなっても終わんねえぞ!!もっと気合入れてやれ!!」
「「「はい!!!!」」」
鳴り響く怒声。
最初はその声量に驚いて両耳をふさいでいた時期もあったが、慣れとは恐ろしいものである。
案の定、振り向けばこちらに向かって近づいてくるキラーT細胞―――もとい、班長さんの姿があった。
日々の鍛錬の成果ともいうべき肉体と、凄まじい威圧感。
こればっかりは今でも圧倒されてしまうのだが、相貌に似合わず口を開くと何だかかわいらし....いや、いい人なので接しやすいと言うのは本人には内緒である。
「おい、A。またせたな。」
「いえ。今来たばかりですよ。」
「ならよかったが....っておい!!!そこ!!サボってんじゃねえ!!」
「「「すみません!!!」」」
抜かりなく光る鋭い監視の目に、キラーT細胞たちはびくりと大きく肩を震わせた。
ほんの少し手も気を緩めればこれである。
全力でつぶしにかかられれる細菌たちが、ほんの少しだけ気の毒な気きすらしてきてしまうほどだ。
「で、今日は室内屋外どっちの方がいいんだ?必要ならあいつらも移動させるが。」
「今の状態のままで大丈夫ですよ。より実践的な指導ができればと思っていますので、前回行った座学を元に班長さんにも手伝って頂きたいのですが。」
「ああ。それなら任せろ。...あいつらが前回の座学ってやつをどの程度覚えてっかはわかんねえけどな。」
「忘れてしまった部分があれば再度解説はしますので、ご心配なく。」
「悪いな。」
「いえ。それが仕事、ですから。」
すぐさま部下たちを呼び寄せるかと思いきや、何故だか班長さんの視線は、私に向けられたままだった。そうまじまじと見つめられては、恥ずかしいものがある。
「...どうか、しましたか?」
「あ、いや。なんつーか。」
「?」
頭をかきながら、ランニングを続けるキラーT細胞たちへと視線をそらし、口ごもる。
「こんな事俺が言うのも何だけどよ。お前、んな顔出来るようになったんだな。」
「どういうことでしょう。」
「...さあな。メガネ野郎にでも聞いてみりゃいんじゃねえの。」
「?」
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作者名:るーこ | 作成日時:2019年3月26日 1時