19.弱み ページ19
.
.
立ち上がって、彼と向き合う。
『えっと…おつかれさ、まーーーーー』
弱々しく笑った彼の顔をうかがいながらそう言うと、
突然腕を引かれて、ぎゅっと抱きしめられた。
『…御幸、くん？』
「黙って。…しばらくこのままでいさせて」
ほんの少し汗のにおい。湿った髪。
私の顔は、御幸くんのちょうど胸あたりに当たってて、おそるおそる顔をうずめると、ぎゅうっと腕の力が強くなった。
誰もいないスタンドに、生暖かい風が吹き抜ける。
御幸くんの、心臓の音がきこえる。
「………………完敗だよ」
『……………………』
弱々しく、彼がつぶやく。
「…………お前、さ。後悔したりしねえの？」
『…へ？』
「稲実行かなかったこと」
胸に顔をうずめたままこたえる。
『………………するよ、しまくり』
「………………するんなら、どうやって今の自分を認めてるの？」
こんなに、消えそうな御幸くんを、私は初めて見た。
でも、同時に感じてたのは、胸の高鳴りじゃなくて、
悲しみを癒す道具、それだけだった。
『認めてなんかないよ。』
『止まってる暇なんかない、それだけ。
私達はまだ高校一年生。
いくらでも、なんだってできる中にいるじゃん』
「……………………」
『私はやってやる。
頑張って頑張って頑張って、
最後に笑えればいいの
終わり良ければすべて良し』
「…すっげえポジティブ」
『…褒め言葉として受け取っとくね』
…やっと笑ってくれた。
私は、できるだけ優しい声で言う。
『…御幸くん、一也って、呼んで、いい？』
「……………いいよ」
『………かっこよかったよ、一也』
「………………」
『私もう、行くから』
彼の胸を押して、すれ違う。
今一也は、私が欲しいんじゃなくて、
慰めてくれるなにかが欲しいだけ
わかってるのに
高鳴る心臓を、必死で押さえ込みながら、
球場の階段を登った。
.
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 459人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：すた | 作者ホームページ：
作成日時：2015年12月6日 0時
