09.後悔 ページ9
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「はぁ?薬師?」
『うん』
学校からの帰り道、セーラー服で隣を歩く俺の幼なじみは、こっちを見ないでさらりと言って。
「どこそこ」
『知らないの?あっちの方だよ』
「…お前、稲実にするって言ってたじゃん、
制服がかわいいだとか」
ばれないように、のぞき込むように、何でもないように、
Aに聞くけど、こいつの表情は動かない。
なんだよ、それ。
つい一週間前までは、進路のプリント見ては絶望的な顔してたくせに。
『うん、でももう決めたから』
「一也がそこ行くって行ってんの?」
これを聞くのは悔しくて、一番聞きたくない言葉を、もしかしたら引き出すのかもしれない質問。
ばればれなんだよ、バカ。
幼なじみなめんな、知ってんだよ
お前がふられたことくらい
『さー?御幸くんがどうするかは、知らない』
「…………」
『修行するの。薬師で修行して、いい女になって帰ってくるの』
キラキラした顔で言う。
あーーー。わかった。
絶対誰かの入れ知恵だ、こいつの場合。
昔っからそう。
何か思い立ったかと思えば、だいたい誰かの影響受けてんの。
そのままでも、お前は、充分ーーーー
そう思いかけて首をふる。
今のこいつに言ったって、ふられんのは目に見えてるんだから。
てんぱった俺は、あの時、一也に言わなかった言葉を、ぽろりとこいつに言ってしまう。
「…後悔しても知らないよ?」
「俺は甲子園に行く。
今まで通り俺の隣でニコニコしてりゃあ、周りのやつよりいい思い、できると思うけど」
『…………絶対しない。
鳴こそ、後悔、しないようにしなよ』
「…何が?」
『甲子園に行くのは、薬師だもん』
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作者名:すた | 作者ホームページ:
作成日時:2015年12月6日 0時