164.純水 ページ35
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あの雨の日、ぼろぼろになったあの人を見て、本当に心を揺さぶられた。
あの教室の中で、俺を好きと言って儚げに笑ったあの人を、本気で支えたいなと思った。
あの月の綺麗だった夜、あんなに色っぽく誘われて、
まだまだ子供な高校生の自分は、あっさりとその行為を受け入れた。
「…もうやめにしたいの」
今の彼女ほっぽってまで助けたいと思った女は、
するりと俺の腕の中から逃げて行った。
まるで猫だ
「振り回して、ごめんなさい。…御幸くん。
でももう、この関係を続けるのは無理」
生徒と教師の恋愛なんてもってのほか。
勢い、雰囲気にのまれた、お互いに溺れた、
ただの馴れ合いだったんだ、俺達の関係は。
誰がどう見ても、礼ちゃんの選んだこの選択は賢明だった。
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『かーずーや!』
付き合った途端、やたらと甘えてくるようになったこいつが可愛かった。
口がうまいわけでもないのに、俺がからかうとむきになってでも言い返してくる、かわいい彼女。
鳴がこいつを好きだったことも知ってるし、
最終的に鳴のおかげで俺達は付き合えたんだって望月は何度も何度も言った。
俺はなんだか不服で、それを望月が言う度に、
不機嫌を隠しながら話題を変えてた。
薬師に行っても上手く真ん中で楽しくやってる、
自覚のない器用な女。
『一也は、そのまんまでいいんだよ、』
俺が欲しい時に、一番欲しい言葉をくれるって、照れたように笑いながら言ってくれた彼女。
馬鹿だよな、すっげー好きだって、自覚しないで、
『一也が一也だから、私は欲しかったんだよ』
すっげー惚れてるって、自覚もしないで
失恋でぼろぼろになって泣きついてきた女と、振っても振り回してもへこたれずに俺を追いかけてきた女。
俺が選んだのは、俺がいなきゃ倒れちゃう女。
あのさ、望月。
お前自分のこと自信ないって言ってたけど、
それ俺の方だよ
これ以上、お前に何かしてやれる自信ない
「幸せに、なって」
あの時あいつにかけた言葉は、
心の底から出た、混じりっけのない本心だった。
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作者名:すた | 作者ホームページ:
作成日時:2016年2月16日 17時