Diary11 幸せな時間はそう長くは続かない。 ページ12
パクリ、とろっとろの卵がふんわりとかけられたオムライスをスプーンで切り取って一口。
「ん〜!美味しいですね、黛さん!」
口の中にふわりとパセリの風味とトマトの甘酸っぱい味が広がる。中のケチャップライスにはぷりっぷりのウィンナーに角切りにされた野菜。流石専門店だけあって美味しい。
「そうだな。確かに美味い。……そうだ神崎、こっちも一口食べるか?」
ほい、と目の前には差し出されたのはホワイトソースがかかったオムライスがよそわれたスプーン。私がシンプルなプレーンオムライスとどちらにしようか悩んで選ばなかった方。
「いただきます!」
パクリと差し出されたスプーンに食いつく。
こちらはバターの風味の中にもしっかりと煮込まれたコンソメの香味野菜の味がする。
「……なんか今が一番生き生きしてるな、神崎は。そんなに美味しかったのか?」
「失礼ですね、黛さん。確かにオムライスは家でも作れますよ。でも手間暇かけてってなるとやっぱりきちんとしたお店で食べた方が美味しいじゃないですか」
黛さんは苦笑してそう言うもんか……?と言っているけど大体のものに関してはそうだと思う。一芸を極めた人や物にはその分野では叶わない事が多い。そう言った意味では赤司くんから聞いたパスに特化した黛さんのバスケはそっちの系統に属しているのではないかと思う。
「あ、そうだ黛さん。今度黛さんのバスケ見せて下さいよ。私まだ見たことないですし」
「お前な……。まあ良いぞ。樋口が大学じゃあ選手に復帰するとか言ってたからな。見に来いよ。夏休みにどうせ大学見学で来るんだろ?俺も樋口も大学は東京の大学に行くから」
そう告げられた一言にウーロン茶を飲む手が止まった。ズゴッとストローが間抜けな音を立てる。急に周囲の声が、聞こえていた音楽が聞こえなくなった。
分かっていたはずなのだ。黛さんは私より一つ上。同じ道を歩むことはどうしても出来ないと。今こうして一緒にいてもそれは後一ヶ月で跡形もなく消え去るのだと。
どうしようもない程に私は浅はかで愚かなのだ。この楽しいひと時が永遠に続くと思い込んでいたのだから。
ああ、時が止まってしまえばいいのに。この幸せな時間が、黛さんと一緒にいられる時間が永遠に続けばいいのに。
音のない静寂はただ、その存在が恨めしかった。
Diary12 垣間見える独占欲は扱いづらい。→←Diary10 親戚ってやけに面倒くさい人いるよね。
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黛夕那(#・∀・#)(プロフ) - あの、初めの千尋saidで神崎葉月ってでたんですが… (2019年9月1日 12時) (レス) id: 590d5b732c (このIDを非表示/違反報告)
ゲスでゲス - かぁいい作品をありがとうございました・・・ (2018年8月26日 9時) (レス) id: ed4900357a (このIDを非表示/違反報告)
カコ - すごく可愛かった。キュンとした。素敵な作品をありがとう。 (2018年7月22日 21時) (レス) id: 87181eb08c (このIDを非表示/違反報告)
マリア - 続読めたいです (2017年9月26日 10時) (レス) id: 8569ec9184 (このIDを非表示/違反報告)
葉隠叶芽(プロフ) - 飛鳥さん» ありがとうございます!なるべく早く書き上げられるようにしますので楽しみに待っててください! (2017年7月7日 23時) (レス) id: 0edaa43e99 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:葉隠叶芽 | 作成日時:2017年3月23日 20時