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顔を下げたまま慌てて雫を拭って

急いで本に出来た跡を

ハンカチで押し当てて拭い去る

顔を上げれば 君はいつもの君だった

「目にゴミが入っちゃった」

そう言って無理して笑って

気持ちを切り替える為なのか

君は琥珀糖を口に入れて転がした

頬の中で形作りながら動く琥珀糖

右往左往しながらやがて溶けて消えていく

完全に無くなった頃 ようやく言葉を紡ぐ

「今夜 サーカス見に行かない?」

「サーカス?いや まだ来てないって」

思わず素っ頓狂な声を出す僕に

君はまた悪戯っぽく笑う

そこに涙はもう見当たらない

「シミュレーションしようよ」

「えっ?何の?」

「夜抜け出す練習。じゃないと本番は上手くいかないんじゃない?」

「そりゃあそうだけど…抜け出して何処に行くんだよ」

流石に夜の盛り場へ行く勇気は

僕にはないし 君にもない筈

夜の散歩と言ってもこの辺りは何もないし

裏山に続く森に入ったら遭難してしまう

じゃあ何処へ?

戸惑い気味に君を見れば

君の笑顔は何故か儚げな雰囲気を纏っていた

「だから 夜のサーカス」

「何だよ それ…何処でそんなのやってんだよ」

少し苛立つ僕に君はくふくふと笑うのに

瞳は不釣り合いな揺らぎが

浮かんで消えて沈み込んでいく

「それは夜になってからのお楽しみ」

僕を黙らせるみたいに

君の人差し指が僕の唇に押し当てられる

「……誰にも内緒だよ」

唇を弾く様に指はバウンドして君に戻る

一瞬 妖艶に見えたのに

いつのまにか元の笑みに戻って

君は素早く梯子に足を掛けた

「じゃ 帰ろっか」

「えっ?まだ門限まで時間あるよ!僕 来たばかりだし…」

高い所が苦手な僕が

せっかく必死の思いでここまで登って来たのに

もう 終わりなの?

…だから…つまり…その…

制限時間いっぱいまでは

僕と君は秘密の共犯者でいたいんだ

そんな感情が湧き上がるのは おかしいのかな?

まごまごしている僕を見て

君は何か察したみたいだ

「急いで宿題片付けてお風呂入って 夕飯食べちゃわないと大冒険出来なくなっちゃうよ」

小声でそう言ってウィンクすると

君は梯子をささっと降りて隠れるように

天鵞絨に包まって手招きをしている

「まだみんないるから 静かにね」

声を出さずに動く君の口元

たしかにボールの弾む音がまだ聞こえる

僕は無言で頷いて

さっきより慎重に音を立てず舞台に降り立つ

だけど君の姿はもうなくて

天鵞絨だけが存在を表すみたいに波打っていた


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青山白樹(プロフ) - だんぼさん» (;゚Д゚)何でその設定が解ったんですか?まさか女学生がだんぼさんモチーフだって事がバレてました?笑雨の日のお迎えって面倒臭いけど2人の距離が縮まる気がしますよね。雨に濡れると甘さを増す香りの中いつまでも優しく甘い2人でいて欲しいと願いを込めました。 (2019年6月29日 18時) (レス) id: dc26697653 (このIDを非表示/違反報告)
だんぼ(プロフ) - 青っち〜天邪鬼で意地っ張りで、でもすごく分かりやすいあの子♪ 蒸し蒸しとした季節ですが爽やかなお話の贈り物 どうもありがとう♪ただひとつだけ心配なのは傘を貰った女子が腐ってたら…(笑)ガン見され尾行されてるかも〜2人ともッ背後に注意よ〜(笑) (2019年6月29日 13時) (レス) id: b513b55378 (このIDを非表示/違反報告)
青山白樹(プロフ) - やまさん» やまさんこちらにも感想ありがとうございます。雨で諦めてたピンクムーンを早朝見つけて朱鷺色に染まり始める空の中の月がほんのり染まった様に見えたんです。ピンクと言っても実際の色とは関係ないのですが。こんな場面なら小さな秘密もきっと特別になりますよね。 (2019年5月22日 10時) (レス) id: dc26697653 (このIDを非表示/違反報告)
青山白樹(プロフ) - やまさん» 素敵な感想ありがとうございます。昔近所に古い喫茶店が有り覗いたら意外に混んでいる店内に驚いた事があります。やまさんの話を聞いて思い出して書いてみました。ソーダ水頼んでもアイスを乗っけるそんな優しいマスターと何かが始まる予感を感じて戴ければ幸いです笑 (2019年5月22日 10時) (レス) id: dc26697653 (このIDを非表示/違反報告)
やま(プロフ) - そして、一つ前のお話も大変遅ればせながら拝読させていただきました。まさに桜月夜の宵!!桜色に染まる月の光を浴びる睦じいお二人に、胸がきゅんとします♪ (2019年5月22日 1時) (レス) id: 0f4c7ca2f3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:青山白樹
作成日時:2014年10月2日 12時

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