十六話 曲者 ページ18
久々知に道具箱を渡してから縁側で茶を飲んでいた。
もうすぐで昼が過ぎる。茶の味はやはり感じない。
綾部はあれから近づいてこないものの、口止めが聞いたのか詮索してくる者は無い。殺しに慣れてしまうと、平和な空間ですら違和感を覚え、そして壊れてしまうことに怯えていることに気がつく。
平和など、自分には程遠いものだと言うのに。明日あたりに村へと攻める軍が入る。
茶を飲み干し、保健委員がいる場へと足を運んだ。
「昨夜怪我したと聞いたんですが…、結構重症ですね」
苦笑しながら事の経緯を聞く。善法寺伊作と、三反田和馬。生徒の話からわかったが、随分と不運だな。いや、不運に見せかけた罠か？
警戒を一切解かず、一年の猪名寺乱太郎が忙しくしているのを他所に口を開く。
「善法寺さん、でしたね。脚は動かすと痛みますか？」
「あぁ…かなり痛むから、骨がやられたかも…。動かないように固定してあるけど、治るには結構かかるね」
「骨が…、三反田さんもですね。随分とまあ…手薄だ」
「え？」
「医療班が動けない以上、これから出る負傷者を多くて三人、しかもたったの十歳に任せるのは危険じゃないですか？」
「そうかもしれない。現に乱太郎もかなり疲れている筈だ。でも……、僕は出来るって信頼してる」
「信頼…」
忍者にとって信頼など必要無い。無駄だ。自身の我を第一とし、味方を味方だと思わん。いつの間にか寝首を掻くのだ。
「…旅人さんは、いつも何かに警戒しているようだね」
「……警戒？」
表情を読まれたか？いや、表情には出ていない。だとしたら脈を見られた？いや、触れられてすらいない。
「うん、いつも何かに怯えている表情だ」
「…そうですか。私には不運な貴方の方が警戒心を持った方が良い」
「そう言われると言い返せないや…」
あははと苦笑する彼を他所に、外は薄暗く、松明に火を灯す時間となる。
彼女は怪我人の元を離れまた森へと足を運んだ。
「曲者」と言う言葉を聞きつけ、変に興味を惹かれたのか意思のまま任務を一旦忘れて気配を感じる場所まで走り抜ける。
「成る程…弱者に見つけられる程鈍りましたか？」
木の上に居る曲者に彼女は声を掛けた。彼を追いかける六年生達は、二人の合間に誰一人として居ない。
「…Aか」
小手調べとでも言いたいのだろう。月が雲に隠れた途端、彼はAの目の前に現れて苦無を振った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 142人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あまね(プロフ) - すきー！ (12月10日 11時) (
レス) @page34 id: 2b125e9969 (このIDを非表示/違反報告)
ルシア(プロフ) - 久しぶりの更新お疲れ様様です！！ (9月19日 21時) (レス) @page32 id: 75dd258af5 (このIDを非表示/違反報告)
みょーが - 主人公が毒にだけ味覚が働いたり、興奮で身体能力が上がったりするところ、とてもしっかり作り込まれているのを感じます！銀鬼さんの小説は場面展開がわかりやすくて物語の世界に没頭できます。これからも更新楽しみにしておりますね。 (2023年4月10日 22時) (レス) @page25 id: c021c07d07 (このIDを非表示/違反報告)
おろししょうが - 刺殺と視察掛けてるの天才 (2023年4月10日 19時) (レス) id: 1e91c7e46b (このIDを非表示/違反報告)
らぱ(新)(プロフ) - 作品、読ませていただきました。時間の流れ方だとか誰がどんな動きをしているのかだとか、それぞれが繊細に伝わってきてしっかり理解することが出来て、本当に凄いと思います！キャラをおさらいしてまた来ます！続編楽しみにしています！ (2022年1月5日 20時) (レス) @page14 id: c719b83a52 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：銀鬼 x他1人 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/ginki/
作成日時：2020年9月21日 15時
