そらのうえで【有馬】 ページ27
「は、い…」
せ。
虚無の世界に引きずられ、最期の言葉を【彼】に届けることは叶わなかった。
_____
かつて、20区で執り行われた梟討伐戦。
その地下での新鮮な驚きと、喜びをこの世の存在ではなくなった今も、有馬は忘れられずにいた。
久しぶりに感じた、自分の血の生ぬるい感触や、傷口の刺すような痛み。
それは、死に触れ続け、死神と呼ばれ、シに慣れすぎていた有馬の、【生】の感覚を呼び起こした。
【カネキ ケン】なら。
有馬は、その時隻眼の梟と協力し、次の時代の【英雄】の玉座を造り上げている最中だった。
しかし、それは空っぽだった。例えるならば、主人を持たないただの仮面といったところだろう。
少しでもボロを出せば、実態のない霧のような存在だと気づかれてしまう。
そう、早急に【中身】を選ぶ必要があった。
だから、彼に名を与え、生かし、自分の全てを注ぎ込んだ。
…俺は、つくづく最低な父親だ。
望んでもいない冠を押し付け、目に見える残せたものといえば、古傷ぐらいのもの。
自分勝手で、我が儘。
…そんな俺の為に、彼は涙を流してくれた。
理解が出来なかった。
奪うだけ奪って、何も生み出すことの、出来なかった俺に、いきる理由をくれた。
それが堪らなく不甲斐なくて、心地よくて。
___押し付けた自分が、願うことではないのかもしれないけれど。
___ねがわくば、彼が次の時代で幸せになれますように。
いつか、この意識も体のように朽ち果てるのだろうか。
そう思った矢先、背中がふわっと柔らかいものに触れた。
いつの間にか視界が明け、雲ひとつない青空が覗いている。
そして、何よりも、息をしている感覚が戻って来ていた。
有馬は久々にその重い体を起こす。
その白い綿のような地面は、バランスが悪く、立ち上がりにくかった。
「ここは…」
やっとのことで立ち上がり、有馬は辺りを見渡した。
辺りは、澄んだ、冷たい空気で満ちていた。
ここは、俗に言う、天国だろうか?
子供心ながらに、母親と、死んだら天国に行きたいね、なんて言っていたことを思い出す。
有馬は、想像していたよりも、ずっと孤独で、ただっ広い場所だな、なんて思いながら、不安定な道を歩き続けた。
しかし、やがて、拡がる景色は変わっていった。足元に花が点々と咲き、やがて、懐かしい香りで空気がいっぱいになった。
「貴将!」
遠くで、懐かしいあの人の声がした。
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有馬さん、天国でお幸せに…。
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ここら - リクエストありがとうございました!面白かったです。 (2018年1月30日 0時) (レス) id: 5605721028 (このIDを非表示/違反報告)
アイスゥ(プロフ) - cherrycherryさん» こんなにたくさん…ありがとうございます!がんばります! (2018年1月6日 1時) (レス) id: c8d2aafd8b (このIDを非表示/違反報告)
cherrycherry(プロフ) - 長くなってしまいましたが私が気になったのはこれくらいです。きちんと的確にアドバイス出来ているか不安ですが、少しでも作者様のお役に立てたら嬉しいです^^ お互い無理すること無く頑張りましょうね! (2018年1月6日 1時) (レス) id: 53d3e916f9 (このIDを非表示/違反報告)
cherrycherry(プロフ) - また作者様は比喩表現と言うものをご存じでしょうか?比喩表現を文章の中に軽く入れてあげるとこれだけで文才があるように見えます (笑) 少し上級者向けのテクニックですが、作者様の技量を確認した所十分に表現できるかと思います!是非一度こちらも試してみて下さい (2018年1月6日 1時) (レス) id: 53d3e916f9 (このIDを非表示/違反報告)
cherrycherry(プロフ) - キャラ達の台詞の前に少し入れてあげるだけでうん、とみちがえるほど物語の世界に溶け込めるかなぁ、と思います(*¨*) より多くの方に楽しんで頂くためにはそういった細かな配慮が必要になってくるのですよね〜(> <) これが小説の難しい所であり楽しい所だと思います! (2018年1月6日 1時) (レス) id: 53d3e916f9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アイスゥ | 作成日時:2017年10月18日 1時