2 文豪グルメ 短編集【文スト】

フランシス・F　マカロン ページ40

「おるこっと、おるこっと」

「ぁ、Aさん…ぃぇ、お嬢様……ひゃあぁ」


　飛行船の廊下にて、Aはルイーザ・メイ・オルコットに抱き着いた。


「柔らかい、こーひーの薫り」


　それに対して、ルイーザはひえぇとかのわぁと反応をする。


「おーい、作戦参謀さーん。フィッツジェラルドさんが呼んでたよー」

「あ、は、はいぃ」


　遠くからの爽やかな声に吃驚して、彼女は離れて行ってしまった。
　代わりに、近付いてきた彼に抱き着く。


「やあA。今日も可愛いね」

「じょんは……草原と、お日様、葡萄の香り」

「くすぐったいよ、ははっ」


　この白鯨に連れて来られてからは、こうして心を満たしている。

　温もり、それと。


「あ。ねぇ、お父上が呼んでいるよ。
　ねぇ――スコットお嬢様」


　後ろを振り向くと。

　あの人が笑顔で立っていた。
　豪奢で、気品高く、圧倒的な存在感で。


　Aがスタインベックから離れ、フランシス・スコット・キー・フィッツジェラルドへ駆け寄ると。

　誰よりも強く、抱き締められた。


「愛しのスコティー！駄目だぞ、あんな貧小で、泥塗れの軟派な男に近付いては！」

「大丈夫――ぱぱ」


　慣れない言葉を、やっと口にして。


「さぁティータイムにしよう！この為に、お前は日本へ留学したのだから！」


　部屋に入れば、豪華な調度品、そして山盛りの、マカロン。


「目についた店から購い占めたぞ。さあ、パパからの愛を受け取っておくれ！」


　ぴんく、おれんじ、みんとぶるー、

　日本とか関係ない。
　間違っている。

　そんな事、互いに解っている。


　カラフル、見慣れない、持てばその力で崩れそうな脆い菓子。

　含めば、サクッと云う音と一緒に溶けていった。


「おいしい」

「そうだろうそうだろう！」


　喜色満面。
　本当に幸せそう。


　死んだ娘と、瓜二つ。

　それだけで、互いに、人生が変わった。


　確か、両親の何方かが海外の出……そんな事を忘れる位、天涯孤独の身だった私を、

　拾ってくれた人。
　救ってくれた人。


「愛しているよ、スコティー」

「私も――大好き」


　頬と頬に、キスをした。


　これでいい。


　貴方がいれば、
　私は何にも要らない。


　でも、貴方がくれたマカロンの事は、
　好きになろうと思う。


　此れから。


　私は、
　Aは、

　フランシス・スコット・フィッツジェラルドとして、


　貴方と、いつまでも――

フョードル・D　蕎麦→←新双黒　　　虎河豚【月華様Req.】

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す