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〈二章〉薄氷 ページ10

*



六年ぶりのアカデミーとテーブルシティ。このひとつの帝国のような雰囲気が、昔は好きだった。

今の校長は、クラベルという人らしい。

アカデミーの中に入って、エントランスで入校許可の手続きをする。元々アポはとっているので、スムーズに進んだ。



「では、校長室までご案内致しますね」



受付役の人が、人あたりの良さそうな笑顔を浮かべて言った。その人についていき、校長室まで向かう。
すれ違う学生達は、この世界の光の側面しか知らないような輝かしい表情(かお)ばかりで、それが少し不気味にも思えた。

校長室に着き、誘導してくれた人がドアを三回ノックした。



「クラベル校長。お客様です」

「どうぞ」



声質からして、なかなか年配の方にも思える。

中に入ると、紫のジャケットを着たクラベル校長がいた。
……予想していたよりもかなり紳士的な容姿で内心びっくりだ。



「では、ごゆっくり。今お茶をお持ちしますね」

「あ、お構いなく」



そう言っても、まるで聞こえていないかのように誘導役の人は去っていってしまった。しかし、仕方ない。それが迎える側の使命みたいなものなのだから。



「はじめまして。Aさん。私がグレープアカデミーの校長、クラベルです。どうぞ、おかけください」



久々に外の人と話すので、柔らかい口調にホッとした。「失礼します」とソファに腰を下ろした。



「はじめまして。Aといいます」

「本日は御足労頂きありがとうございます。歴代の生徒名簿を拝見しましたが、あなたもアカデミーに通っていたのですよね」

「うー、まあ、はは……」



中退した身なので、どこか気まずくて変な受けごたえをしてしまう。
ただ、あのとき、中退せずにちゃんと卒業までしていたらと考えるのも事実だ。



「それで、今回はどのような用件で?」



元研究者としてのクラベルにも、十分に興味がある。
しかし、それ以外に訪ねたいことも、四の五のあるのだ。



「昔話をしてもいいですか?」

「昔話とは……?」

「私、実はこの六年間失踪扱いになっていまして。最近こちらに帰ってきたんです」



そう言うと、クラベル校長は目を開いた。
サラッと言ったが、六年間の失踪はそう易々と片付けられる事案ではない。ちゃんとわかっている。



「この六年間、私がどこで何をしていたのかという話です。ただ、これは機密事項なので。絶対に守ってくださいね」

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作者名:昆布の神 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fullmoon721/  
作成日時:2023年2月25日 23時

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