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「私って、わりとサイコだったんだなあって、今思っててさ。子供の頃、意外と周りの人とかどうでもよかったみたい。皆の前からいなくなっても、最初はマジで何も思わなくて。それを驚きもしなかった」
サイコパスというか、Aは、怖いもの知らずな人間だった。
興味のあるものに一直線で、一度、気になるポケモンを追いかけて崖から飛び降りたことがある。
幸い、スマホロトムを持っていたため無事だったが、それを目の前で見ていたということもあり、Aの興味対象への執着心に恐怖を覚えたような、そんな記憶がある。
「でも今、びっくりだよ。グルーシャは止めないんだ? もうどこにも行くなって言ったのに? 今度は海の底とか、空の果てまでも行くかもしれないのに」
「それは、だって……」
自分が誰かの前からいなくなっても、それでも当時はどうでもよかったのだと切り捨てるような言い方をしておいて、
今は、自分がまた同じことを繰り返そうとしているのを止められたがっているかのようなことを言う。
「……だって、Aは、言っても聞かない」
辛うじて出てきた言葉が、それだった。
どんなに止めても、彼女は言うことを聞かない。一人で、誰かを置いてけぼりにしてでも突っ走っていってしまうのだ。
「グルーシャらしくないこと、言うんだね」
Aを見ると、彼女は体制を変えないまま、どこかぼんやりとしていた。
六年前までは、まだスノーボードをやっていたはずだ。
その頃のぼくしか知らないAの目には、今の自分はどんな風に映っているのだろう。
さぞかし、酷く無気力で、ダサく見えていることだろう。
自分は何か、勘違いをしていたのかもしれない。
この六年で変わったのは、Aだけじゃない。
自分も変わっている。変わってしまった。六年前は、悔しい思いもつらい思いも沢山したけれど、でもそれに勝る楽しい感情があったはずだ。
今はどうだ。唯一残された才能に縋って。……ただそれだけでも、何も残らなかったよりは、何倍もマシなはずなのに、報われない気持ちになって。
楽しいという感情を、自分はどこに置いてきたのだろう。
「でも、大丈夫。私も昔ほどイカれてない」
時間は、すれ違って溝を生むもの。
「ありがと。アカデミー行ってみる」
今の自分達に相容れるものは、何もないのだろう。
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作者名:昆布の神 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fullmoon721/
作成日時:2023年2月25日 23時