〈序章〉ゆらりゆらりと燃える炎の如し ページ1
*
〈旅に出ます。捜さないでください。〉
六年前___テンプレともいえるような、ありきたりな言葉を書き残して、突如として彼女は消えた。
アカデミー生だった頃から、とにかく好奇心が旺盛で、興味のあるものを見つけると、ところ構わずふらふらと歩いて……いや、走っていってしまう子だった。
『あのさ、私、アカデミーさ、中退することにした』
何を思ったのか、彼女……Aはある日唐突にそう宣言して、そのままアカデミーを退学し、その後すぐに姿を消して行方不明になった。
いくら好奇心旺盛とはいえ、素っ気ない一言を残して家にも寮にも戻らないのはAらしくなかった。
家族のことを大切に思っているのは、幼馴染なのだから、知っている。
それなのに、たった一言の書き置きでいなくなったのだから、心配になるのは当たり前。
Aの親族はすぐに警察に捜索願いを出した。
が、見つからないまま一週間が経って一ヶ月が経って、半年が経って一年が経って……。
見つからないまま、六年の月日が過ぎてしまった。
あと一年見つからなければ、死亡したものと見なされ、捜索も時効で二度と行われることはない。
そんな中でも、ジムリーダーとして淡々とバトルをこなし……というか、ただそれだけしかない日々の中で、つまらない息を吸ってはいらない空気を吐くだけ。
そして、ある日、唐突に、彼女は戻ってきた。
まるで、昨日だってここに普通にいたかのような、呑気なツラを引っ提げて。
「よ」
ヒョイと片手をあげて軽く挨拶をするA。
上着を一枚も着ていない。相変わらず雪山に薄着で登山してきたらしい。
しかし、六年前から髪も身長も伸びているし、幼かった顔はすっかりあどけなさを消している。
けれど、面影だけはAの存在をしっかりと残している。
「…………よ……」
ぱしぱしと瞬きを二回して、ようやく口を開いて喉の奥の奥から何とか言葉を絞り出す。
「『よ』、じゃない! だいたい今までどこ行って……。行き場所も言わずにいなくなるからおばさんも泣いてたし、ていうかなんでAは子供の頃からいつもいつもいつもそんな薄着で雪山来るわけ、死にたいの!?」
文脈がおかしいが、そんなことはどうでもいい。
言いたいことや訊きたいことがたくさんあった。
今までどこで何をしていたのか、どうして突然、いなくなってしまったのか____。
51人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:昆布の神 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fullmoon721/
作成日時:2023年2月25日 23時