知ってはならない。

第12話 ページ13

お母さんに案内され、凜の部屋に入った。

カレンダーやタンスの位置など何も変わっていない。

それなのに。

生前と何も変わっていないにも関わらず、ここまで寂しい雰囲気を出すのか、と驚いた。

真ん中の小さなテーブルの上には、冷たい麦茶とお菓子が置いてある。

凜のお母さんが壁際に座ると、私はテーブルを挟んだその反対側に座った。

「寂しくなったでしょ。」

私が座るなり、凜のお母さんが微笑して言った。

「はい。何も変わってないのに、雰囲気が全然違います。」

「捨てるのは凜の生きた証を捨てるような感じがして、全部残しとこうと思ったのだけど、結局寂しくはなるのね。」

そう言って再び凜のお母さんは軽く笑った。

凜が生きた証。
いつか私の記憶の中の凜を、忘れてしまう時が来るのだろうか...。

こんなにも大切な凜を、忘れるなんてことが。

絶対にないとは言いきれない。
いなくなるというのはこんなにも怖いのか。

私が黙って俯いていると、凜のお母さんが春美ちゃん、と言った。

私は咄嗟に顔を上げ、はい、と返事をした。

すると

「っ...?」

突然凜のお母さんは私の手を取った。

「...お母さん...?」

そして凜のお母さんは私の手を強く握って言った。

「春美ちゃん。私にとっては、あなたが凜の生きた証なの。この部屋にあるどれよりも、凜はあなたを大切にしてた。あなたと出会って、高校生活が充実してるって、よく言ってたわ。凜の人生に色をつけたのはあなただったのよ。ありがとう。本当に、ありがとう...。」

「っ...」

堪えよう堪えようとしていた涙が、うっすらと私の目に浮かんだ。


凜のお母さんは何か勘違いをしている。

凜に助けられたのは、人生を色付けられたのは、私の方だ。
凜の優しさと明るさと温かさに支えられていた。
私はただ、それに救われていただけで、何もしていない。

「凜にっ、助けられていたのは私の方です。あの優しさにっ...何度も何度も助けられました。だから、凜の死んだ理由を知りたいんです。それが凜のためになるとかそんなことは思ってないけど、私が凜を失わないといけなかった理由、凜がこの世を捨てなければならなかった理由を、見つけなくちゃいけないんです。」

私は自分に言い聞かせるようにそう言った。

理由を見つけたい。
見つけなくちゃいけない。

...それが拓磨に抗うことになったとしても。

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