蜃気楼*17 ページ17
*
病室に足を踏み入れると、ひやりとした空気が漂った。
ベッドの脇の椅子に腰掛けると、ガタ、と音が響いた。
すぅ、すぅ、と人工呼吸器の中で、北山が呼吸をするのが聞こえた。
「北山……北山っ……ごめん、おれ……」
守れなかった悔しさがこみ上げてくる。
血が流れだしていた頭に包帯が巻かれ、擦り傷だらけの腕はガーゼだらけだった。
手を握って、額にキスを落とした。
きゅ、と眉頭を少し寄せた気がした。
「……っ、じがゃ………」
うっすらと目を開き、小さく呼ばれた俺の名前が呼吸器の中にこもったように響いた。
よかった、気がついた……!
「……っ、く、……北山っ……」
安心感から涙がこぼれた。
北山は少し目を細めて、口角を上げて笑った。
「…ふは、……情けねー、泣くなよ……」
「っ、そ、だよなっ」
北山の言葉にごしごしと涙を拭った。
その様子を横目に見て、北山は優しく笑った。
「…ふじがや、……おれ、…たぶん、ダメだ」
「…っ、」
「……聞いてんの?…おれの、さいごの、言葉かもよ?」
「…っ、そんなこと言うなよ!」
大きすぎる声を上げてしまって、ごめん、と小さく謝った。
北山が、ふぅ、と、少し苦しそうに息をする。
無理して話しているのだとわかった。
「…も、話さなくて、いいから……」
「……おまえが、……生きてくれて、よかった」
「な、に…言ってんだよ、お前も、生きるんだよ」
「ふ、じがや……」
北山の首が俺の方を向く。
「な、さいごに、…キス、してよ」
「…さいご、だなんて」
「…なー、…たのむ…」
縋るような目が俺をぼんやりと捉えた。
「…泣く、なよ、」
北山の目がじわじわと濡れていく。
息もさっきより苦しそうだ。
ぐっと歯を食いしばって涙をこらえる。
「…ほんとに、いいの、」
人工呼吸器に手をかける。
これを外せば、もう、きっと、
「…いいよ、…つーか、おれが、頼んでる」
さいごの、北山の、頼み
北山は、もう自分の手ではこれを外せない
外すかどうかは、俺次第で、
迷いから手が震える。
「…っ、じがゃ…はやく、…ッ…」
隣においてある機械を見れば心拍数が安定していないのがわかった。
ス、とそれを外して見つめると、力なく微笑んだ。
優しく唇を押し当てれば、ほろりと涙が一筋伝った。
「……っ…、…………」
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しょこら(プロフ) - Hina.Tamaさん» Hina.Tama様、お読みいただきありがとうございました!!そう言っていただけて嬉しいです。。゚(゚´ω`゚)゚。 (2018年7月27日 0時) (レス) id: ef72d80421 (このIDを非表示/違反報告)
Hina.Tama(プロフ) - しょこらさん初めまして。本編完結おめでとうございます!ハラハラドキドキな展開に毎日更新を楽しみにしていました。素敵なお話本当にありがとうございました!! (2018年7月27日 0時) (レス) id: ca7c7000b2 (このIDを非表示/違反報告)
しょこら(プロフ) - 日美さん» 日美様、ありがとうございます!そのように言っていただけて本当に嬉しいです。゚(゚´ω`゚)゚。 (2018年7月27日 0時) (レス) id: ef72d80421 (このIDを非表示/違反報告)
日美(プロフ) - 初コメ失礼します。更新お疲れさまでした。初めて更新されたときから毎回更新がとても楽しみな作品でした。とても大好きなお話です!また次のお話も楽しみにしています……!! (2018年7月26日 23時) (レス) id: 86fe79ef6e (このIDを非表示/違反報告)
しょこら(プロフ) - askiiii...xxxさん» ありがとうございます!更新頑張りますのでよろしくお願いします!⊂*`∀´⊃ (2018年7月18日 10時) (レス) id: ef72d80421 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しょこら | 作成日時:2018年7月13日 12時