蜃気楼*FK

蜃気楼*16 ページ16

F side





北山が何度も不自然に俺を引き止めたから、
少しおかしいなと思いながらも、疲れているのだろうと思い、隣で寝てやると、安心したようにすぐ眠った。




さっきはいらないなんて言っていたけど、
明日の朝、やっぱり要るなんて駄々をこねられても困ると思い、北山を置いて家を出た。
……また、死なれても困るし。
20分か30分そこそこだろう。寝つきのいいひろのことだし、きっと起きることはない。




にしても暑いな。
スーパーで買ったコーヒーを片手にアクセサリーショップへと足を進める。
明日は北山の26回目の誕生日だ。
北山に似合いそうなピアスを注文してあった。
シルバーの、立体的なハートが揺れるピアス。
それの、受け取り。




どんな顔をするだろう。
浮ついた気持ちで歩いていると、不意に腕をつかまれる。




「…帰ろう藤ヶ谷」



聞き慣れたその声に驚く。



「…っ！？おまえ、なんでここに、」



振り返ってまた驚く。
ジャージにTシャツ…部屋着から大して着替えもせずに出てきたらしかった。
汗をだらだらとかいていて、息はあがっている。
どうやらここまで走ってきたようで…

……だけどそんなことはどうでもいい
ここにいたら、北山の身に危険が……



「いいから、早く帰ろう」
「っ、なんだよ、先帰ってろって！」




早く帰ろうと急かす北山。
どうして、俺まで帰そうとするの？


目の前の北山が遠くを見つめたまま固まる。
何を考えてる？今何を見てる？




様子が、明らかにおかしい。




「…北山？」




俺の声にはっとしたように意識をこちらに取り戻したのか、
途端、掴まれたままだった腕をぐいっと強く引かれて、北山の背中側に放り出された。





「ぃ、って……なにすん、……」




ドンッ
ガシャンっ





北山に抗議しようと体を起こした途端、鈍く大きな音が響く。
振り返れば、さっきまで俺のいたところに車が突っ込んできていた。



「……っ北山！？」




俺の代わりにぶつかったであろう北山は、
俺の後ろで頭と腹部から血を流して倒れていた。





「北山っ、……北山！！！」





どうすればいいかわからず、細く息をする北山の名前を呼ぶことしかできない。
しばらくすると通行人のひとりが救急車を呼んでくれたらしく北山は運ばれていった。



タクシーを捕まえてあとから追いかける。
その車内でも慌てている頭は一向に落ち着かない。

どうしよう、また、死んでしまったら？
俺の、せいで……………





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