happIness*2-17 ページ17
「ただいま」
.
静かな部屋に、低くて落ち着いた声が響いた。
会いたくないくせに、やっぱり会いたくて、
ソファの上で膝を抱えてじっとしていたら、
彼が帰宅する時間になっていたらしかった。
.
「あれ、起きてる。珍しい」
「……」
「ただいま」
.
最近顔を見ていないことに気づいていたのか、
夜に起きている私を"珍しい"と言って、翔くんは笑った。
ただいま、と言う彼に、
おかえり、とひらひらと手を振って見せる。
.
こちらに近づいてきた翔くんが、
頭に手を置いて数回往復させたあと、
そのまま額に唇を寄せた。
.
ああ、ずるい。
ほんとに、ずるい。
結局私は、この人のことを嫌いになんかなれなくて、
顔を見れば、好きしか出ない。
.
「シャワー浴びてくる」
「、」
「……眠たい？(笑)」
.
ゆるゆると撫でられる頬が気持ちよくて、
瞼がとろりと落ちてくる。
.
「風邪引くから、ベッド行きなよ」
「、」
.
その久しぶりに聞いた優しい声に、
泣きそうになって、誤魔化すみたいに俯く。
シャワーに向かう背中を見送ったら、
やっぱり少しだけ、涙が出た。
.
寝室は暗くてひんやりしていて、
ぽふん、と倒れ込むとベッドが軋む音がきこえた。
.
もぞもぞと動いて掛け布団を口許までひっぱる。
誰もいないそこは冷たくて、
自分で暖を取ろうと、ぎゅ、と身体を丸めこむ。
.
目を閉じて、ゆっくり呼吸をすると、
ゆるゆると眠気が襲ってきて、
何度か体勢を変えながら落ち着く位置を探してみた。
.
彼はこの後、私のとなりで眠るんだろうか。
いつもみたいに、私を腕に抱いて、額にキスをして、
おやすみと言って、あの大きな目を閉じるんだろうか。
.
起きて待っていたい、だけど最近よく起きる
ゆるやかな眠気に思考が奪われていく。
そうだ、この前、言えなかったことがあって、
「好き」だって、いいたくて、でも言えなくて、
だけど言わなきゃ、離れていってしまう、好きなのに、大好きなのに、
大好きだから、嫌われたくないのに。
.
夢が、もうすぐそこまで迫っている。
ああ、今日も私は、
大好きな彼に大好きを伝えることができない。
.
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