happIness*2-13 ページ13
.
どのくらい経っただろうか。
壁を隔てた先の彼の時折ぼそぼそと喋る低い声や、楽し気な笑い声は聞こえてきた。
そしてそのうち、パタパタと忙しそうに廊下を行ったり来たりする音も聞こえて来る。
.
私はそっと起き上がって、床に落ちた服を拾い集めた。
人肌から随分離れてしまったそれは、
羽織るとひんやりと冷たくて、
暖を求めるように布団の中にもぐりこんだ。
.
待ってて、なんて嘘だ。
そんなこと最初から分かっていたくせに、
都合のいいように信じて、結局泣くんだ。
.
ぎゅ、と唇を噛む。
じゃないと、声を上げて泣き出してしまいそうだった。
…そう思った所で、ああ、泣き声だって私は出ないんだと気づいて、
何を馬鹿みたいなことを考えているんだろうと自分で自分を笑った。
.
そっと、扉が開く気配がして、私は閉じていた目を開いた。
リビングの光が隙間から漏れていて、
それに照らされた彼は外に出るための格好をしている。
白いシャツに、紺色のジャケットに同じ色のパンツ。
どう見たって、今から外出する人のそれだ。
.
「A、」
「……」
「寝た？」
.
起きていると示すように、寝返りを打ってみせる。
待っててとあなたが言ったから、待っていた、
馬鹿みたい、ドキドキして、期待して、あなたが「好き」だと言ってくれるかもと期待して。
.
「ごめん、ちょっと出かけて来る」
「…」
.
こんな夜に、どこに？
私を置いて、誰と会うっていうの？
声にならない言葉がぐるぐると頭の中を駆け回って、
気づいたらぽろぽろと涙が頬を濡らしていた。
.
「あったかくして寝て」
「…」
.
ベッドの隅に置いたままになっていたパーカーを取って、
掛け布団の上からそれをそっと掛けた。
ふわりと彼の香りがする、大好きなはずなのに、
安心するはずなのに、今はそれが嫌で、口元まで隠していた布団を鼻まで引き寄せる。
.
「A、」
.
名前を呼ばれて、彼の手が頬に伸びてきた。
身体をよじった勢いでそれを拒否する、
はあ、と聞こえてきた溜息に、さっと体中の血液が引いた感覚がした。
.
「行ってくる、おやすみ」
.
ばたりと閉まった扉の音と同時に起き上がって、
咄嗟に彼の名前を呼んだけど、当然音は出なくて、彼には聞こえない。
パーカーをぎゅ、と握りしめて八つ当たりするみたいに投げ捨てる。
ふわりと宙に舞って、ぱさりと落ちた。
まるで私みたいだ、と思った。
happIness*2-14→←happIness*2-12
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2125人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
