チューベローズの恋人【呪術廻戦】

番外編2 ページ45

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立ち止まった伊地知君の視線につられ
お店の看板を確認すると間違いなく「食べ処”小鳥箱”」と書かれている。

凄い名前ですね、と顔を引きつらせていた彼と共に中へ入り、
家入の名を出せば若いアルバイトの青年に部屋へ案内された。



不自然に深呼吸をして恐る恐る引き戸に手をかける伊地知君。

様子のおかしい彼を後ろから眺めていると、
少しだけ開かれた隙間から中の様子を確認し、ぴしゃりと戸は閉めてしまった。

そして服の袖で眼鏡を拭き、瞬きを繰り返す。


もう一度戸を開けた彼の口からは溜息が。
背中は落胆したように小さくなった。






「何やってんの？」

「五条さんこそ何やってるんですか？」





「飲み屋でノンアルコール縛りプレイ、酔っぱらうまで帰れまテン。」

「……一生帰れないじゃないですか…」






「縛りプレイは縛りがキツくないとやる意味ないでしょ。てか、早く座れよ。Aさんが入れないだろ。」


「あっ、すいません。」

『いえいえ。コート、もらう。』






まだ私の姿は見えていないはずだが、
相変わらず、こんな所でも彼の鼻はよく利くのか。
慌てて前へ進んだ伊地知君に声をかけながら店員さんにコートを預ける。







「どう考えてもお前は硝子の隣だろ。」

「……すいません。」




『いいよそこで。』

「いえ。後が怖いので。」




『ああ。そう。』








座ろうとした座席にまで文句を言われている伊地知君に同情しながら悟の隣に腰を落とす。

どうやら彼はこの横暴な先輩がいるのを知らされていなかったようだ。
硝子と2人だと思っていたのならあの挙動不審さもがっかりした顔も納得がいく。






「とりあえず駆けつけいっぱい。」





慣れた様子で自分の分と2人分を注文した硝子。
当然のように運ばれてきたビールの入ったジョッキに手を伸ばす。

斜め前の硝子にも運ばれたハイボールに目をやり、
もう何杯かは飲んでいるだろうが相変わらずの顔色の悪さに笑みが零れる。

隣にはジョッキのメロンソーダという対極の甘党がいる。







「飲むの？」

『飲むよ？』






「飲まれるとキスする時酒の味がして嫌なんだよね。僕下戸だから、酔っ払っちゃう。」

『じゃあキスはしないで。縛りプレイは得意なんでしょ？』






「ていうか駅着いたら迎えに行くから連絡してって言ったよね。何で伊地知と一緒に来るかなあ。」

『ハイハイ。ごめんなさい。』

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