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ふと、猫の鳴き声が聞こえた気がして振り返る。
みゃあ、と鳴く声の主は、三毛猫のミケだ。
塀の上から降りて来て、足に頭を擦り付けるミケに思わず口角が上がる。
「可愛いねぇ、お前は。」
ちょいちょいと撫でてやれば、通学鞄の上に乗っかって尻尾を揺らす、ミケ。
こらこら、と下ろそうとすれば、ふわふわの肉球の下に、鋭い爪が見えた。
下ろすのは、辞めておこうか。
ミケを連れたまま、最寄り駅まで歩く。
そろそろ降りな、とミケに催促するがいやいや、と首を振られてしまう。
ため息を吐いて、仕方なくそのまま改札口を通り、ホームに向かった。
危害を加えなきゃ、まぁ、大丈夫かな。
と考え、ホームに向かう為の階段をあがり________否、あがろうとした。
「えー、ねぇそれマジー?」
「マジマジー!ヤバくない!?」
「やばー!」
甲高い、声。
上を見上げれば、茶色に染まった髪と膝上丈のスカート。
背中を冷や汗が流れ落ちた。
また、演じなくてはいけないのだろうか。
もう、疲れたのに。
震える手を見たのか、ミケが心配そうにみゃお、と鳴いた。
大丈夫だよ、と柔らかい毛を撫でてやる。
今日は違う電車で行こう、と違うホームに向かった。
「…行こっか、ミケ。」
みゃう
青が見たい、と脳が騒ぐ。
海にでも、行きたいな。なんて思ってしまう。
そこで、朝の手紙が思い起こされた。
どうせ、120時間で終わってしまうなら、無理に演じる必要なんて、無いじゃないか。
「…ミケ。」
みゃお
「海、行こっか。」
みゃうぅ
向かう筈だったホーム側から、ローファーの爪先をくるり、と一回転。
私は、近場の海に続く電車が出るホームへと歩き出した。
どうせ、絵梨しか見てないんだから、私の事をお母さんだって見てないでしょう?
「…なら、良いよね。」
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作者名:青碧 | 作成日時:2020年9月11日 0時