六月へ消える (ページ6)

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かたんことん

誰も居ない電車が揺れて、微かに開いた窓から入ってくる潮風が髪を揺らす。

隣で妙にお行儀よく座るミケに微笑んで、また電車に揺られていた。

鞄からは、GPSを切った電話のバイブ音が漏れ出している。

きっと、お母さんか学校のお偉い先生だろうな、と検討をつけて、ため息を吐き出した。

どうせ上っ面しか見ていない癖に、よく今頃電話を掛けてきたなぁ、と軽く呆れる。

今までだって、私が逃げる可能性はあったのに。

何故今頃、電話を掛けてくるのだろう。

叱ろうとするのだろう、心配するのだろう。

「…ｯあー、ほんと馬鹿みたい。」

演技でしか使ったことの無い低い声を出して、からからと笑えば少しだけ楽になった気がした。

“次は、水界。次は、水界。下りの際はお忘れ物がございませんよう、お気を付けください。”

あ、次で降りよう。

ね、とミケに目を向ければ、にゃぁ、とひとつ鳴き声をあげた。

黒くて無駄に重量感のある鞄を肩に引っ提げ、ホームに降り立つ。

ざぁん、と遠くから聞こえる夏に思わず口角が上がった。

「ミケ、海来ちゃったねぇ。」

みゃうぅ

「ふふ、もう私は自由だよ。」

みゃおぉん

くるり、とローファーでひとまわり。

青い蒼いスカートが宙を舞った。

そのまま軽くなった足でホームの階段を踊るように降りていく。

もう、自由だ。

そんな頭で空気を吸って、からり、と肩を回せば、はじめて青春を知れた気がした。

嗚呼、このまま青く溶けて、空に消えてしまえれば良いのに。

青い双眸の、青く溶けた自分は、酷く美しく見えるのだろう。