口癖 -3- (ページ2)

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94 / ほら、手。ページ2

side S

彼が、歩き出さない。

「どした？行かないの？」

じっと繋いだ手を見つめて

何かを考え込んでいる。

こめかみに指を当て、ぐり、と一度押す彼。

「痛む？」

「……………ううん、……痛くないの…」

驚きと

発見と

不思議と。

それらを混ぜ合わせたような表情をする。

彼の思考がよくわからなくて、戸惑ってしまう。

「やっぱり疲れてるのかな、休む？」

「………うん、……休む…」

どこか、思考が違うところに在るような彼をベッドまで見送り

横にならない彼を見兼ねて、何かあれば連絡するよう伝えて

部屋を後にした。

疲れてるときに、誰かが居座るのはよくないだろうと

そんな、俺の判断。

「………、」

部屋を後にして、

静まる廊下でひとり、振り返る。

この判断は合っているのかな。

何かあったかと問い詰めるべき？

でも、それでもっと疲れさせるかもしれない。

病院の独特な匂いと

どこかからやってくる冷気。

それが相まって、帰ろうと再決心した今も

何故か、怖い。