乞ウモリ (ページ41)

今日:37 hit、昨日:1 hit、合計:93,433 hit

beg.40 / 自分の中の他人－A ページ41

「……最初は、知らなかったの」

小さな声で、ボソッと

彼が話し始めた。

「心臓が2つあることは分かってた。
でも…小学生の時。
やってないことやってたって言われたり、
記憶が一部抜けてたり、
一日とんでたり…

そんなことが繰り返し起こった」

“ 記憶 ”

その言葉に、

無意識に反応してしまう。

「…相葉くんと同じで、病気だと思った。
すげー不安になっちゃってさ…
見えるわけないのに、鏡で確認しようと思って
鏡を見たら、…っ」

「大丈夫。…大丈夫だよ」

言葉に詰まった彼。

背中を摩りながらそう声を掛けると

そっと体を離して、

しっかり俺の瞳を見た。

「……誰？って…、喋ったの、…ソイツが」

驚きすぎて見開いたままの瞳が乾燥しそうで

パチクリと瞬きをして

耳に届いた言葉を、もう一度脳内で繰り返す。

こんな時に、彼がふざけることは無いと

分かってる。

「……ソ、イツって…、鏡の中、の？」

なるべく分からないように、とは思ったけれど

声で、キョトンとしたのが分かったみたいで

彼は、慌てたように口を開く。

「俺も…っ、見間違いだと、思ったのっ」

「うん、大丈夫…」

「でもっ、でも…っ、ほんとに、話すの、
同じ顔のはずなのに、でも俺じゃない奴が…っ」

「松潤。焦らないで。ね？」

その当時のことを思い出したのか

瞳がユラユラ揺れて、

焦点が合ってないまま話し出すから

呼吸が上がった彼を一旦止めて、宥める。

ふぅ、とひとつ息を吐き

自分自身を落ち着けてから、再び話す。

「……夢見てるのかと思った。
でも、ソイツは…俺じゃなくても、俺なの。

…ソイツも、心臓が2つあるんだって…言ったの」

「…うん」

「行ってると思ってる学校も、親の名前も、
全部同じだった。

…ただ一つ、違うのは
心臓が痛んだ時、どっちを抑えるか。

それで、確信したの。

ソイツが俺で、俺がソイツで…
もうひとつの心臓から生まれた奴だって」

“ 僕はキミなんだね ”

ソイツも驚いたようにそう言った、と
松潤は呟いた。

“ それと同時に。キミは僕なんだよ ”

同じようにそうも言った、と。