″元″冷酷のマネージャー【御幸一也】

第百六十話 ページ27

御幸side


沢「御幸先輩、A先輩と喧嘩したんスか？」


御「ん？ん〜...」



ブルペンで球を受けていると、沢村にそう聞かれた。

俺は肯定することも否定することもせず、ただ曖昧に返した。


喧嘩っつーか、俺が一方的に嫉妬してキレただけなんだけど。

引退試合での事を思い出して、俺は頭を悩ませた。


試合開始前に、Aはクリス先輩と楽しそうに話していて、

それだけならまだしも、クリス先輩のプレーをキラキラした目で見ていた。

倉持とも親しげに話してたし...。


正直、俺と話している時、Aは楽しそうにしていない。

俺のプレーも、あんな目で見入られたことはない。


俺がそう指摘すれば、アイツは迷惑そうな顔をした。

それが不満で、つい冷たく当たってしまった。


俺があの時、素直に嫉妬したって言えればよかったんだろうけど...。

あの日から全く話していない。

いい加減俺もA不足だ。


...Aはどう思ってんのかな。

やっぱ、普段鬱陶しい俺が構わなくなって、嬉しいって思ってるか？

少なくとも、寂しいとかは思ってないよな。


自分で答え見出だしといて、すげぇ傷ついた...。


倉持に聞いたらところによれば、

そんなに深刻に考えてはいなさそうだったらしい。


いや、アイツは感情が冷め気味なのは重々承知だし、

滅多に表情に出すことはないのも知っている。

実際、付き合ってから一ヶ月ほど過ぎたが、未だに笑顔を見られていない。

赤面を二、三回見られただけマシな方だ。


だから、倉持の考え過ぎって可能性も、少なからずある訳だ。

...やめよう、自分で自分の首を絞めるだけだ。


だからって、ずっとこのままってのも絶対に嫌だ。

けど、何言ったらいいのか分かんねぇしなぁ〜。


結局その日も話すことが出来ず、そのまま試合前日の練習も終わってしまった。


事件が起きたのは、その夜だった。

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