″元″冷酷のマネージャー【御幸一也】

第百五十五話 ページ22

やはりバッターがいないときは大丈夫ならしく、

特に問題がなさそうな沢村。


出来れば、クリス先輩に打席に立って欲しかった。

すると___



結「選手交代お願いします！」



結城先輩の声で向こうのベンチから出てきたのは。



貴『クリス先輩...』



たった今、立って欲しいと思っていたクリス先輩本人だった。

クリス先輩だけでなく、試合に出ていない三年生もみんな準備しているようだ。


恩師出あり、沢村のムービングをずっと見てきたクリス先輩でも振り遅れるらしく、

何球もファールが続く。


そこでアウトコースに手が出なかったものの、判定はボール。

随分厳しい審判だ。


しかし、今のは私も身震いするほどいい球だった。



カキーン！



そんな球をバットに当てられるのだから、本当に凄い、クリス先輩は。

高く上がったボールは春市の頭上で、見事クリス先輩を打ち取った。


それで勢いがついたようで、無失点で抑えた。

...この回が最終回だってこと頭にないな、あれは。


ぞろぞろとベンチから整列しようと出てくる選手たち。



片「まだだぞ！まだ決着はついていない」



監督のその言葉で、選手たちの足は止まった。



片「試合に出てない三年生も随分いるだろう。

　 ここまで来たら、とことんやり合え！」



みるみるうちに笑顔になる選手たち。

やっぱりやめたくないだろう、こんなにも楽しい試合を。


向こうは伊佐敷先輩が投手として出るらしく、

先輩のコントロールの悪さを知っているメンバーはゲッと顔を歪ませた。


クリス先輩もプロテクターを付けていると言うことは、バッテリーを組むのだろう。

丹波先輩も、クリス先輩とバッテリーを組みたかっただろうに。


いつもの試合とは違い、茶化す言葉や文句の言葉が行き交う。




...いいな。




喜ぶ選手たちの姿を見て、純粋にそう思った。

これまで私は、試合を楽しいとは思ったことはなかった。


確かに練習よりはやり甲斐があるが、

ただ勝ち負けを決めるだけの試合にしか思えなかったのだ。


試合に出ていない私にさえ、この試合の楽しさがひしひしと伝わって来る。


また、あのマウンドで投げたい。投手の球を捕りたい。

打席に立ちたい。


試合に出たい。


やはり、そう思ってしまう。


これは三年生の引退試合だし、選手たちのための試合。

マネージャーに、ましてや二年に出る権利はない。


私はただただスコアを取りながら、羨む気持ちを抑えて試合を見ていた。

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