″自称″冷酷のマネージャー【御幸一也】

第百十七話 ページ24

翌日の練習試合、第一試合は降谷と沢村の継投で白星をあげた。

しかし第二試合、川上が先発したものの、五回も持たなかった。


一方甲子園の方は、稲実がまた勝ち進んだようだ。

一試合勝ち進むごとに、何故か鳴から連絡が来る。



貴『いい加減、せめてメールにしてって言ってるでしょ。

　 こっちだって毎回電話出れるほど暇じゃないの』


成「とな言いながら、毎回出てくれるじゃ〜ん！」


貴『出るまでずっとコールし続けるでしょ』



稲実がベスト16を決めた日の夜。

ちょうど食堂で夜ご飯を食べていた私は、外で鳴と喋っていた。



貴『バレたら面倒だし、次電話してきたら着信拒否するから』


成「何回もかける！」


貴『......』



鳴の我が儘さは身を持って知っているつもりだが、

甲子園で勝ち進んでいることに調子に乗っているのか、いつも以上にうざさが増している。



貴『...それならメアドも消す』


御「そうしろそうしろ」


貴『...！？』



突然御幸が中から顔を出してきて、私からスマホを奪い取った。

向こうで鳴がギャーギャー騒いでいるのが、ここからでも分かる。



御「お生憎様、我が儘プリンスに構う時間はないんでね」



そう言って、通話を切ってしまった。

「ほい」と差し出されたスマホを受け取る。



御「最近抜けること多いなって思ってたらこれか。

　 わざわざ出ることねぇだろ、因縁の相手なんだから」


貴『無視できるならとっくにしてるわ』



これからこの時間帯はマナーモードにしておこう。

そう決めて、ポケットにスマホを入れた。



御「...お前、悔しくねぇの？

　 試合に負けた時も、泣いてなかったのお前だけだったろ」


貴『そこまで負けず嫌いな性格って訳でもないし。

　 それに、去年言ったでしょ。野球ができなくなったわけじゃないって』



そう思うってことは、いくらみんなに認めてもらっても、

自分はまだ、前のままだということ。


当たり前か。壊れた感情を簡単に取り戻せる程、世の中楽じゃない。



御「なら、勝ったとしても、嬉しいって思わないのか？」


貴『...そうかもね』



私が小さく返すと、御幸はクシャッと私の頭を撫でた。



御「じゃあ、秋大で優勝して、甲子園に連れていく。

　 それでお前に、『嬉しい』って言わせてやるよ」


貴『...何それ』


御「約束するよ」



手を振り払って、私は御幸を見上げた。

御幸は笑顔を浮かべていて、私は何故か目が離せなかった。

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