″通称″冷酷のマネージャー？【御幸一也】

第八十五話 ページ38

貴『嫌です』


高「ダメよ」



かれこれ五分近く続いているこのやり取り。

いい加減飽きて来たが、さすがにこれは譲れない。



高「病院からわざわざ電話もらったら、断るわけにはいかないでしょ」


貴『だからって、試合当日に...』



と言うのも、戻ってきた監督たちと話していたら、高島先生に電話が来た。

それは病院からで、また検査に来てほしいというもの。

それだけならまだいいが、その日が試合当日だったのだ。


なぜ練習の日はダメなのかと聞けば、予約が多く入っているらしい。

だから、時間の空いている明後日に来てほしいとのこと。


病院の開く時間と試合開始時間を照らし合わせて考えると、

間に合っても試合は終盤のはずだ。


それが嫌でずっと拒否し続けているが、高島先生も引かなかった。



高「あなたの気持ちも分かるけれど、もうその日に予約してしまったのよ。

　 少なくとも、試合終了には間に合うから」



それでも私が首を縦に振らないでいると、片岡監督が口を開いた。



片「相川、お前はまず、自分の怪我を優先しろ。

　 心配しなくても、アイツらは必ず試合に勝つ」


貴『......』



片岡監督にまで言われたら、もう私が折れるしかない。

そう判断して、私は渋々首を縦に振った。



高「送りは部長が行ってくれるけど、球場へはタクシーで来てちょうだい。

　 診察結果はメールで報告して」



私はそれを承認し、いつもの時間になったので監督室を出た。

その途中、お風呂上がりの御幸に会った。



御幸「お前、まだ帰ってなかったのか？」



私に気づいた御幸は、タオルで頭を拭きながらこちらに来た。

御幸を見た瞬間、あの返球のことを思い出して顔をしかめる。



御「いつにも増して不機嫌だな...」


貴『別に』


御「俺、何かしたか？」



私が遠回しに否定しても、御幸は食い下がった。

仕方ないので、御幸を半分睨め付けながら、今日のことを話す。



貴『あの時、なんであんな返球したの』


御「あの時...沢村の初球か？

　 あれは、アイツが自分の世界に入って、俺のリード見えてなかったから...」


貴『だからってあれはない』



私は御幸の言葉を遮ってそう言う。



貴『御幸や監督の考えは、元捕手としてもよく理解してる。

　 でも、もしあの時、沢村がお前のボールを捕れてなかったらどうなってた？

　 怪我でもしてたら、勝利の継投を、お前が壊してたのよ』

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