俺でも日々樹渉になるのは諦める

思わず口にするのが本音だからこそ,大切なもの ページ42

誰だよお前、と友也くんが思ってるのは百も承知だ。そうだね別人だからね。
歩き出せば、戸惑いそろそろと後をついてくる。


友｢…えーっと、部長…？｣


渉｢今日は部長いませーん。おにいさんのことは日々宇さんで良いよ。｣


友｢なりきりすぎだろアンタ！なぁ、本当に部長…｢日々宇さんでいいよ｣

…あの｢おにいさん日々宇ね｣、だ｢日々宇｣…｣


…ウザさは相変わらずだなあんた。
そう呟いた友也くんに、アハハと笑った。


渉｢今日だけは日々樹と別人。まぁ、二重人格だったとでも思っときなよ。｣

友｢…あんたのソレ。"役になりきる"の意味が思考すべてまでも徹底されるから面倒臭い。｣

渉｢えー？でもほら、今日だけは｢口が軽い日々宇｣だしさ。彼奴の失敗談なら教えてあげるよ。｣


そう言えば、まぁ許す。と言葉を吐いてきた。
その顔を眺めて、誤魔化しきれて良かったなと息をつく。



友｢部長って俺のことどう思ってます？｣
渉｢…は？｣


何、そのストレートな質問は。
戸惑いしかないんだけど、タチが悪いし。


友｢あの人、変に遠回りな言い方ばっかだし。甘やかしてる言い方すぎて逆に意味分かんないしムカつく。｣


凄い言われよう。
同じ人物だと分かってるけどそのうえで悪態つかれるの変な気分。あー、と頭をかく。


渉｢…彼奴の価値観と俺の価値観は違うし、優しくないから…言葉をだす際、お前を傷付けるかもしれないけど言わせてもらいたいかな。


上映終わってから。｣

友｢…は？｣


｢だって走んないと間に合わないし｣



★◯


さて99%｢泣ける！｣が評価の映画。



……寒っ。

｢Here's looking at you, kid.｣なんてカサブランカ捩じ込むな、すっこめ！と眉を寄せた。
横の席を見てみれば、友也くんは顔を真っ赤にして俯いている。…何このチェリ…ん"ん"。

泣けるのか？本当にこれが。ベッタベタな関係が急にボロボロになるのが泣けるって？…またありきたりな。
予想がつく展開じゃない？恋人が撃たれて｢◯◯ーーーっ！！｣って叫ぶシーンかな。


…日々樹渉の格好じゃないからか、泣こうと思っても泣けないもんだな。


★◯★


あれはこうだ、ここはあーだと熱いトークを交わしながらシアターから出れば、また｢やっぱり部長なんだな｣という顔を向けられた。
最後に、よかったですね。と声をかけられて微笑めば、それが合図だったかのように一つ息を。


友｢……で。さっきの話の続きですけど｣

渉｢お前、せっかちだよね。｣

己をなくすほど人はその人自身になる。→←理性と英智だけはいつになっても持ってる

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す