俺でも日々樹渉になるのは諦める

生き残る種は,天才じゃなくて,何かの為に変化し続けたもの ページ39

可笑しな空気作り出す俺を放っといて、立ち去れば良かったのに。それか、変な昔話を無視して明るい舞台で躍ってくれてれば良かった。
…変に格好つけた言葉で、手をひかれるのは勘弁だけどね。

今すぐにでも崩れ落ちて壊れそうな者の肩にやさしく手を置いて、其処で泣き続けてろとも言わず、此方に来てとも言わず、｢この用事が終われば、舞台から去ろうが残って何かしていようが大丈夫ですよ｣と意思を尊重して。けれど此方に居ることが当たり前だからって分かって言うんだ、ズルいなぁ。

そりゃもちろん、明るい物語は演じにくいからね。行きたくはないけど。…"演じなくても良い"ってんなら、ソッチに行こうかなぁ。
…でも生涯、役者であるのが日々樹渉だからな。

つまらない馬鹿やるのは、楽しい。
楽しくて笑う世界は、明るい世界。
明るい世界は、幸せな世界。
つまり、幸せな世界は、つまらない世界。


…どっちにしろつまらないな。
馬鹿らしくなってきた、急に。

うんそうだ、映画の話をして盛り上がってる普通の"人間と人間との会話"というものに面白味は無い。
納得した途端にストンと何かが胸に収まって、ほうっと溜め息を吐いた。


なんだ、とっくに解決してたのか。

ただ、仮面のせいで明るい世界も暗い世界にしか見えなかっただけだな。
元から、明るい物語で生きれるようなつまらない特徴があったじゃないか。普通に人間なんだから。

いや、長かったね。
そしてとてつもなく脱力した。

俺は日々樹渉じゃないけど、取り敢えず原作じゃ日々樹渉は救われたってことになんのかな、どうかな。

…きっとそうだろうと思えば、今までないくらいに頬がゆるゆると上に上がる。

日々樹渉は救われたってことになったのだと思えば、本当に嬉しかったのだ。

第三者から見た今の俺の顔は、最高に良い笑顔だろうと思う。


☆★☆



渉｢………つﾞらﾞいﾞぃ…｣


ミステリーステージから数日。
馬鹿か、あの野郎…と呟きながら、俺は自宅のテレビを眺めていた。

事の発端は、映画の話を持ちかけるようになった友也くんの言葉。

｢部長って、一人で映画見るときどんな顔してるんですか｣
｢…………。｣


これほど返答に困った問いは今まで一度もない。
…人前じゃない=演技しない。
涙せず笑わず内容頭にいれること最優先なので無表情ですなんて言えないじゃん？
黙りだって俺を見て友也くんは言った。



｢…今度、映画見に行きません？｣


必死にDVDで泣く練習をしている。

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