おにぎり3種 ページ13
*
「……花見したい」
きっかけは、彼方くんのそんな一言だった。
「ええ…今外に出るのはまずくない?」
「いや、そんな大規模にやりたいわけじゃなくてさ。ちらっと桜見て、軽く食い物つまんで、みたいな」
「ああ、そういう。……家でできない?それ。桜の写真見ればいいじゃん」
食後のお茶を啜っていた彼方くんは、何かひらめいたかのように目を大きく見開いた。そしてその勢いのまま私に詰め寄る。いや怖っ。
「A。来週、ここで花見しない?」
「……言うと思った。仕事行く道に桜並木あるし、写真撮ってくるよ」
やった、ありがと。嬉しそうに顔を綻ばせる彼に、私も笑みが零れた。
*
スマホの画面に映る、帰り道で何枚か撮った桜の写真。散り際の儚さも大好きだけど、こうやって懸命に咲いている姿も素敵だ。
「……よし、おにぎり作るか」
私の家では、お花見をする時必ずおにぎりを持っていく。母から教わったレシピ、なんだかんだ作るのは初めてだ。
炊き上がったご飯を3等分にし、それぞれボウルに入れる。そこにそれぞれ異なる具材を入れていく。
1つ目。茹でた菜の花を細かく刻み、水気を切ってボウルに投入。乾燥桜えびと塩も適量加え、ざっくり混ぜたら完成。
2つ目。冷蔵庫からプロセスチーズを取りだし、角切りにする。それに塩昆布をぱらぱらと放り込めば完成だ。塩昆布があるから味付けはいらないし、簡単で美味しい。
3つ目。鮭フレークをご飯にほぐし入れ、煎った白ごまを振りかける。これも混ぜたら完成。
3種のご飯を、ラップを使ってそれぞれ小さく丸める。小さいものを何個も食べられた方が楽しいし。
お麩のお吸い物と作り置きのおひたしを添えれば、今日のご飯は完成だ。
「……彼方くんが満足するといいんだけど」
*
「ねえ、お酒飲んでもいい?」
一通りご飯を食べ、ネットに流れていた桜の画像も堪能した彼方くんは、私の部屋の冷蔵庫から缶チューハイを取り出した。
「花見酒しようぜ」
「えー……お酒は自分の部屋の持ってきてね」
「お、よっしゃ。つまみも持ってくる」
意気揚々と部屋を出ていく彼の後ろ姿はどうにも楽しそうで、ああこの人は酒を飲む口実が欲しかったんだな、と納得した。そうだよね、花見って大抵お酒飲むもんね。
仕方ない、何か作ってあげるか。
_Aさんはそらるさんのこと甘やかしすぎです_
……こういうところだろうな。痛い言葉に、溜め息を1つ吐いた。
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いつかのだれか。(プロフ) - 執筆お疲れ様でした。料理や登場人物の心理描写が好きで、ずっとお気に入り登録していた作品だったので更新されたこと・完結まで読めたこと、とても嬉しく思います。素敵な小説をありがとうございました。これからもお体に気をつけてお過ごしください🍛 (3月23日 0時) (レス) @page40 id: 0075fb22a2 (このIDを非表示/違反報告)
飛鳥(プロフ) - 少しずつ三崎さんのペースで回復していってください。また三崎さんの素敵な話が見られるのを楽しみに気長に待ってます。 (2020年9月20日 8時) (レス) id: 0edccb8a0c (このIDを非表示/違反報告)
つばさ - 無理せずにゆっくりでもいいので体調を良くしていって下さい! (2020年9月19日 21時) (レス) id: 46296c987b (このIDを非表示/違反報告)
三崎(プロフ) - しおさん» ありがとうございます!無理せず体調を治していきたいと思います◎ (2020年8月23日 19時) (レス) id: 83ba49b51f (このIDを非表示/違反報告)
しお(プロフ) - お知らせありがとうございます、どうか無理せず自分第一で暮らしてくださいね、こちらこそいつも素敵なお話をありがとうございました。早く回復しますように願ってます! (2020年8月23日 17時) (レス) id: 47ac21f61f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:三崎 | 作成日時:2020年3月22日 0時