其ノ参 ページ9
「大丈夫?」
少女が道に倒れている褌野郎に声をかけると、奴は秒でこちらを向いた。
顔からは血の気が引き、真っ青だった。
「本当に大丈夫?」
少女が心配そうに、褌野郎の顔を覗き込んだ。褌野郎は、少女に優しく「大丈夫」と言って、立ち上がる。
その時、初めて私に気付き、少女と手を繋いでいるのを見て、目を見開いた。
「お姉さん、子持ちなんすか?」
少女が楽しそうに笑った。
❁⃘❁⃘❁⃘
「ありがとうございました」
少女の母が、私に深く頭を下げる。
妖力は回復していて、身体に触れてなくとも、姿を見せようとすれば、どんな者も見れるようになっていた。一人、いつでも見れる例外がいるのだが。
「お礼を…」
そう言って、食材を探す母親を私は慌てて止めた。
ここらは今、気温の変化が激しく、農作物が育たないと聞いていた。そんな貴重なものを貰うなど、私には到底できなかった。
「お構いなく。これからも娘さんを大事になさって下さい」
800年の時代の流れと共に、人の会話から、覚えた言葉を並べた。800年前、どんな言葉を使っていたのかも、忘れてしまったから。
母親は、神に縋るような顔で、私に頭を深く深く下げた。不思議なことに、滑稽とは思わなかった。むしろ、感謝されることに、妙な胸の高鳴りを覚えた。
「またね」
少女が笑顔で、私に手を振る。
きっと、少女の言う「またね」は二度とない。それでも、優しく手を振り返した。少女が家に入っても、私は手を振り続けていた。
「優しいっすね」
唐突な褌野郎の声で我に返る。手をすぐに下ろした。同時に、妖力の使用をやめた。どっと疲れが私を襲う。
妖力は言わば、私たち妖の原動力だ。妖力が無くなれば、私たちは動けなくなる。
ふらりと足元がもたついた。それに反応して、褌野郎が私を支える。
「大丈夫っすか?」
「あぁ、すまない」
頼んでもいないのに余計なことを。
すぐに褌野郎から体を離した。異性に触れられるとは、こんなにも変な感じがしたものだったか。戸惑う自分に恥ずかしさを感じた。
帰ろうと、踵を返したら、褌野郎からとても強力な視線を感じた。一体、まだ何の用があるのか。「何だ?」そう言って、振り返った。
「いや、その…近頃、夜になると妖が出るとか出ないとかって言うじゃないっすか。ほんと、恐ろしいっすよねぇ」
こいつが私に伝えたいことは、大体、予想できた。なんて、遠回しな台詞だろう。
「つまり、何が言いたい?」
「城まで着いてきて下さい。お願いします」
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ずお - これは……左近推しにとって嬉しい!城に行って半兵衛様にも会って欲しかったたり……します。 更新楽しみに待ってますね! (2020年2月24日 14時) (レス) id: 8a05a5b115 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:天国水晶 | 作成日時:2019年2月18日 22時