涙雨とセニシエンタ 第二幕【あんスタ】

魔物の巣窟へ招待/第一話 ページ9

翌日。また普段通りを装って過ごしていた私に、思わぬ来客があった。
ディーとダムのように奇怪で陽気な笑顔を浮かべた2人の悪魔が、あろうことか普通科3年の教室へわざわざ降り立ったのだ。とは言え勿論本当に悪魔の子なんて思ってはいないし、彼らの制服からしてアイドル科1年生であることは明確だ。だからこそ『あろうことか』なのである。アイドル科校舎が普通科生徒禁制なのと同様に、彼らもこちら側は不可侵。

「お邪魔しま〜す♪」
「A先輩、いらっしゃいますか〜？」

しかも高らかに私を呼んでくれるものだからその声は教室の隅々まで行き届き、その声を確認した者たちはこれでもかと言うほどに私を見るのだ。

「Aちゃん、呼ばれてるよ。行ってきたら？」

【龍王戦】を共に見に行こうとした生徒が私に声をかける。彼女なりに悪意なく言ってくれているのは分かるが、なんだか教室中の注目を浴びていたたまれない気持ちになる。

「あー……うん、行ってくるね」

私が席を立ったことで目当ての人物を捉えた後輩が、ひとつ瞬きをした後ニッコリと笑顔をつくる。

「A先輩！こんにちは〜☆」
「アイドル科1年の葵ゆうたです！こっちはアニキのひなた」

双子なのだという彼らの太陽みたいな笑顔は瓜二つで、判断材料になりうるものは首に提げたヘッドフォンと顳顬のヘアピンくらいか。
一年前の雨雲みたいに不穏な予感がした。

「アイドル科の1年生が、私に何の用かな」
「これと言ってお話することはありません！」
「ただお姉さんには着いてきてほしいだけっ♪」
「はぁ……？」

彼らはその場でくるりと身軽にターンして見せた。
踊るように軽快な身のこなしで以て私の両手をそれぞれ引っ張り、そのまま駆け出す。

「おっ、おねーさん足速いね〜☆」
「鈍臭かったら担いで行こうと思ってたけど！」

どこに向かうの、そんな心の声が彼らに届くはずもなく。いや、私だって文句のひとつも言えないほど無口ではないはずなのだが、彼らの危険運転が過ぎる走行はとても喋りながらついていけるものではない。曲がり角でも勢いを殺さず壁を蹴る少年……本当に人間？

ひとつひとつの動作に驚いていては身が持たない。しっかりしろ、と自分を奮起させたところで自らがどこへ向かっているのかやっと把握した。

「……ここ、って」
「もうひとり用があるんだよね！んー、どこだ？」
「アニキあそこ。ほら、氷鷹先輩の隣！」


そこは閑散として静まった、アイドル科校舎の講堂。

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