英雄か罪人か/第四話 ページ42
私の言葉を蓮巳くんはゆっくりと咀嚼して、ずっと不機嫌そうに顰めていた眉をすっと脱力した。残念でならないといったようであり、泣きそうなのか怒っているのかわからない、つらく真意の見えない顔をする。
甘い考えだと一蹴されると思った。彼らがどんな思いで常勝を築いてきたかなど知りもしないのに、わかったようなことを言うなと。それはそう言われるのを恐れていたという建前で、実際には私自身に対して私こそが思ったことなのかもしれない。
「……本当に、貴様に今更できることなんてない。これでは、なんのためにあいつや朔間さんが貴様を――」
「その話は今すべきではない。それに、我輩やAが今更何かしようなどとは思うまいよ。今動き出したのは、まだ生まれて間もない星の子供たち。止まっていた星座たちが回りはじめ、そして我輩たちが過去に得てきたものが星の導となった……それだけじゃ」
時折、こうして私に聞かせたくないように話を断ち切ってしまうのは、目に見えない優しさなのだとわかっている。わかっているから、踏み込まずに目を瞑る。そう思い込まないと、彼と心が離れていってしまいそうで耐えられなかった。
零さんの濡れ羽色の髪が重く靡いて、必要最低限に抑えられた照明をつやつやと反射させる。
「本当にそれでいいのか、朔間さん……?」
「おぬしこそ、我輩のことなど気にかけている場合ではなかろうに。光り出した星々を止めることなどできぬ。新たな時代は、すぐそこまで迫っておるぞ」
断固たる声色には、もはや蓮巳くんの抗弁など許さぬ響きがあった。この時間、観客席ではライブの感想などを言い合う殷賑な明るさが戻っているのだろうけれど、革命の匂いに呼吸が浅くなって頭がぼうっとする。
休憩時間の終了を知らせるブザーが鳴る。
これが時代の幕開けの合図かもしれない。
頑なな灰色の沈黙の後、隠したつもりの敵意を含んで少しだけ気の立った視線をこちらにも投げ、蓮巳くんは大袈裟に振り返って舞台へと去ってしまった。残された沈黙の重石だけが私と零さんを縛ったが、彼のそれまでは虚勢というわけではないだろうに、なんだか弱った表情で私をその視界にみとめた。
「……A。大切なおぬしを守ろうとして、大切なことは何一つ伝えられず、沈黙しか選べない弱い我輩を、どうか許してほしい」
私が首を横に振ると彼は少し清々しいような顔つきになって、そして目線を上げたときには舞台に立つ凛々しさに変わっていた。感情を隠して人前に立つ、その気高さにどうしようもなく愛おしくなる。
ただ、謝らないでほしかった。
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更科(プロフ) - あひる様さん» お返事遅れてしまってごめんなさい。読んでくださる方がいる限りは頑張ってみようと思います。応援ありがとうございます。 (2021年5月28日 23時) (レス) id: 749f88a822 (このIDを非表示/違反報告)
あひる様 - やばい!物凄く!!!好きですぅううううう!!!頑張ってくださいっ!!!!応援してます!!! (2021年5月20日 23時) (レス) id: fee7c2866e (このIDを非表示/違反報告)
更科(プロフ) - 姉系チート2号(データ消えちまった成)さん» こんにちは。わざわざコメント頂きありがとうございます!今は更新が難しい状況なのですがきちんと書きたいという思いはありますので、ゆっくりお待ちいただければと思います。 (2020年2月3日 11時) (レス) id: 749f88a822 (このIDを非表示/違反報告)
姉系チート2号(データ消えちまった成)(プロフ) - 達筆な文章に惚れました!無理はしない程度に、更新を楽しみにしています! (2019年12月17日 13時) (レス) id: 41a0229c91 (このIDを非表示/違反報告)
更科(プロフ) - さくぷらさん» さくぷらさま、コメントありがとうございます!返信が遅くなり申し訳ありません…。儚く透明感のある主人公を目指しておりますので大変光栄なお言葉をありがとうございます。ゆっくりになってしまいますが更新頑張ります! (2018年3月29日 11時) (レス) id: d6f890f9ad (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:更科 | 作者ホームページ:
作成日時:2017年11月29日 18時