涙雨とセニシエンタ 第二幕【あんスタ】

微かな光明/第四話 ページ33

かつては『五奇人』が悪であった――そして彼らを討伐するために生徒会はあった。今、その生徒会の圧政に反発するべく『Trickstar』が立ち上がったことは必然であり、繰り返される歴史のあらわれだという。
そう語られる過去と零さんの凄絶な想いを、私は言葉では否定できずにいる。彼もまた、私を見ることはなかった。

「明日に迫った決戦……『S1』本番でも、生徒会を打倒するために尽力しよう。けれど、これだけは信じておくれ」

穏やかな語り口で好々爺めいても、その奥にあるのは諦めきれない雄心だ。

「我輩は決してかつての栄光を取り戻すため……我らをかつて弾圧した生徒会を憎むがゆえに、参戦するわけではない」

零さんは確実に変化していた。刺激のない日々にうんざりして生きていたあの頃、世界に悲嘆していた彼ではない。未来を見ている。そこに敗北の記憶からなる憂虞は既になく、室内灯を受けて赤い双眸がぎらりと瞬いた。



零さんの話を黙って聞く後輩たちのなかで、ただひとり、転校生ちゃんだけが私を見ていた。
その様子は私の顔色を伺うようでありながら、強く何かを訴えかけている。何を見て生きたらここまで透明な輝きを持てるのか、恐ろしいほど澄んだ薄茶の瞳に映るのは動揺を隠せていない私。

「……先輩は」

凛とした眼差しが射掛ける。

「協力しないって言ってたのに……朝比奈先輩が協力してくださるのは、どうしてですか」

無口な彼女が、自分の意思でものを喋っていると、それだけで緊張してしまう。彼女の透き通った自我に、私の後暗い部分を織り交ぜてはいけない気がして。

私が、彼女らに協力する理由。
朔間零のことが好きだから？――それは、そうだけど。彼らに希望の萌芽を見出したから。転校生ちゃんの直談判に、内心では根負けしていたから。……罪悪感が、あったから。
全部合ってるけど、言葉に変わったのはそのどれとも違った。


「生徒会長は、友達だから。……話がしたい」


最大の敵は私の友人だといった零さんの、注意深い視線が頭をよぎる。それを蔑ろにする気はない。けれど、かつて私が手を離してしまった『彼』が、後輩たちから輝きを奪っているなら、どうかもう一度その手を掴みたい。これ以上、己を傷付けて戦い続けないように。



「頼むぞ。どうか、永らく停止していた時計の針を進めておくれ」

一度こちらに微笑んだ零さんが、光のような深い愛情でもって『Trickstar』に向き直った。私たちの願いすら背負って戦いに立つ彼らの、なんと眩しく気高いことか。


「歌声と演奏にのせて、おぬしらの夢を聞かせておくれ」

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