ヒロイズムは縹渺/第三話 ページ26
「――あれ、女の子がもうひとり?今日の俺、最高にツイてるかも……♪」
目を引く金髪がどうしても軽薄そうに見えてしまう目の前の彼は、私を映した色素の薄い明灰色の瞳を細めて満足気に笑った。ここで待っていたはずの転校生ちゃんの姿は見えない。
なぜこんなことになってしまったのか――ことは数十分ほど遡る。
・
一時間ほどかけて『Trickstar』に宛てた差し入れを拵え、折角だから転校生ちゃんにも私からジュースでも差し入れしようかな、と思い至ったのがつい先刻。学食とは言えガーデンテラスはもう営業時間を過ぎているから、購買部か自販機まで赴く必要がある。
事情を話せば私の分はいいですと遠慮される自信があったので、喉が渇いたから自分用に何か買ってくるとだけ伝えた。
そうして自販機で適当なドリンクを購入し、およそ数分でガーデンテラスに戻ってきたのだが。
声をかけながら彼女を探すと、そこでは珍妙な光景が広がっていた。
「転校生ちゃんお待たせ、ジュース好きなの選ん……」
「――おいおい、そんなに見つめないでくれる?男に見られて喜ぶ趣味はないんだけど……おや?」
困惑を浮かべるのは衣更真緒くん。生徒会室で遭遇した、『Trickstar』のメンバー。
そして彼に相対する、華やかな金髪と甘い声音の麗人は、正直、知らない存在ではなかった。ここで、冒頭に立ち返る。
・
女の子がもうひとり、というからには転校生ちゃんがここにいるのだろうが、ざっと見た限り彼女は見当たらない。奇妙な取り合わせのエンカウントに私はしばし狼狽してしまい、目の前の3年生の彼は人あたりのよい笑顔からスイッチが切れたように苦笑を滲ませた。
「……な〜んて、知ってるよ。朝比奈Aちゃんでしょ」
「名前、知ってたんだ……」
「そりゃあ、去年あれだけ目立つ人の周りにいればね〜?俺は男には興味ないけど、女の子のことは忘れないよ」
そう言って、私の肩を一度だけ軽く叩く。穏やかな海のような香りが舞い立ち、余韻の微かな甘さが後を引いた。
私も、彼のことは知っている。羽風薫――昨年のあれこれを一歩引いて傍観していた、数少ない目撃者。彼に傍観の意思があったかどうかは、まあ、別として。
体格がよく威圧感が出てしまいそうなところを、透かせそうに明るい灰色の双眸によって優しい印象に仕立てあげている。そして金糸の如き髪は手入れが行き届いた様子で、やや着崩された制服にもだらしなさは無く、清潔感と爽やかさが印象的だった。
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更科(プロフ) - あひる様さん» お返事遅れてしまってごめんなさい。読んでくださる方がいる限りは頑張ってみようと思います。応援ありがとうございます。 (2021年5月28日 23時) (レス) id: 749f88a822 (このIDを非表示/違反報告)
あひる様 - やばい!物凄く!!!好きですぅううううう!!!頑張ってくださいっ!!!!応援してます!!! (2021年5月20日 23時) (レス) id: fee7c2866e (このIDを非表示/違反報告)
更科(プロフ) - 姉系チート2号(データ消えちまった成)さん» こんにちは。わざわざコメント頂きありがとうございます!今は更新が難しい状況なのですがきちんと書きたいという思いはありますので、ゆっくりお待ちいただければと思います。 (2020年2月3日 11時) (レス) id: 749f88a822 (このIDを非表示/違反報告)
姉系チート2号(データ消えちまった成)(プロフ) - 達筆な文章に惚れました!無理はしない程度に、更新を楽しみにしています! (2019年12月17日 13時) (レス) id: 41a0229c91 (このIDを非表示/違反報告)
更科(プロフ) - さくぷらさん» さくぷらさま、コメントありがとうございます!返信が遅くなり申し訳ありません…。儚く透明感のある主人公を目指しておりますので大変光栄なお言葉をありがとうございます。ゆっくりになってしまいますが更新頑張ります! (2018年3月29日 11時) (レス) id: d6f890f9ad (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:更科 | 作者ホームページ:
作成日時:2017年11月29日 18時