涙雨とセニシエンタ 第二幕【あんスタ】

芽生えを見た/第三話 ページ16

「えっと、僕はどうでしたかね……？」

控えめに一歩踏み出すのは遊木真。彼のことを認識したのは今日が初めてだった。
秘めたるポテンシャルや目を引く華やかさを、野暮ったい眼鏡で隠している。そこが彼の至らない理由だ。

「……遊木真くんだね。正直、あなたは――」
「うん。遊木真。おぬしは、全然ダメ」
「全然ダメ！？」
「ちょっと零さん！」

零さんの言葉は演技がかった口調になって棘が抜かれた反面、たまに放たれるナイフがより研がれてしまった気がする。証拠に、『全然ダメ』が響いてしまった遊木くんは大きな目を零れそうなほど見開いて、受けたショックを顕にしている。

「ごめんね、違うの。……あなたのことを初めて知った私でさえ、まだ秘めている才能があるって確信できた。余裕があるとか、手を抜いてるとか、そうじゃない。……何かに、怯えてる？」

歌や踊りがまだ荒削りなのは否めないが、それ以上に、自分を出すことを怖がっているのがわかる。初対面の私にはそれが何なのかわからない。けれど、この仲間を見る限り、怖がる必要などないことは確実だ。

「……零さんが言いたいのも、そういうことだと思う」
「うむ。ということで。遊木くんには、これから地獄を見てもらう♪」



＊



「――じゃあ、明星くんは転校生ちゃんと一緒に過ごす。氷鷹くんは、葵くんたちと。遊木くんは、大神くんと特訓……って流れでいいですか？」
「よいよい。Aも、そのつもりだったじゃろ？」
「そうですね、それぞれの不得意を補える強力な師匠がいるわけですし……お披露目はどこですか？」
「目指すは二週間後の『ドリフェス-S1』あたりかのう。それなら公式戦じゃから、生徒会も昨日の野良試合のように容易くはつぶせぬはずじゃ」

とんとん拍子で話が進む様に、転校生ちゃんは物も言わず瞠目する。なんだか君は、『Trickstar』のために熱い覚悟で私に直談判しに来たというのに、黙ってしまうとまるで意見のないお人形さんみたいだ。


「あぁ、我輩が永く見守ってきた夢ノ咲学院の歴史に、新たな1ページが刻まれる！」


元来、陽光を浴びることを避けたがる零さんが、窓際で斜陽に向き合った。

英智くんが革命を成した後の夢ノ咲学院を、私は知らない。氷鷹くんが何に怒り、転校生ちゃんが何を想い、そして零さんが何を見てきたのか。日の当たらないところにいる私では、零さんを照らす晩照ですら眩しすぎた。

「武者震いが止まらんのう、どうか我輩を灰にするほどの輝きを見せておくれ！尊く愛おしい、煌めく夢を秘めた将星たちよ！」

繰り返す邂逅/第一話→←芽生えを見た/第二話

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す