魔物の巣窟へ招待/第三話 ページ11
結局彼らの押しに負け、私は不気味な扉をくぐった。どの部屋も同じ扉なはずなのにやけに重たく感じる。
薄暗い軽音部室。高い昼光を暗幕が邪魔している。明かりも付けず人の気配もない部屋には軽音部室らしく楽器や楽譜が積まれたらしい棚が見え、あとは質素なパイプ椅子が疎らに置かれ薄気味悪く冷たい空気が漂う。
――部室の真ん中に陣取った趣味の悪い棺桶が、何よりこの部屋の異質さを演出している。
「起きてくださーい！」
「転校生さん来ましたよっ」
その不気味な棺桶に双子は近寄り、声を揃えて中に呼びかけた。聞きたくて聞きたくなかった、魔王、元生徒会長、いや……好きな人の名前。
「朔間先輩！」
ガタン。棺桶の中で何かが動く音がして、その蓋が内側からゆっくりと持ち上げられた。
暗い室内で棺桶がひとりでに開くとは異常な光景であるが、やがて中から吸血鬼そのもののような、奇妙な麗人が姿を現した。
艶めかしい黒髪、血を垂らしたような真っ赤な双眸、妖美な口元、月桂のように白い肌、欠伸をすると覗く犬歯。
それらは全て脳裏に深く刻み込まれた容貌であった。
「――A、か？」
「零さん……」
時が止まったようにさえ感じた。彼と初めて出会った日、同じような感覚に陥ったのを思い出す。浮世離れした美貌で見詰められると縫い付けられたように動けなくなり、息をするのも忘れるのだ。
「どうして、ここに」
パチパチと瞬きが繰り返され、ガーネットをそのまま閉じ込めたみたいに真っ赤な瞳が見開かれる。
一年前と変わりない綺麗な目なのに、なぜか私は逃れるように目を逸らした。
「朔間先輩っ、転校生さん連れてきましたよ！」
「っああ……そうかえ、ご苦労だったのう葵くんたち。転校生の嬢ちゃん、誘拐のような真似をしてすまなかったのう？こちらが招いたんじゃ、もてなそう。葵くん、茶を用意しておやり」
以前の溌剌として荒々しかった零さんとは真反対な、老人めいた口調。気だるさはそのままにまるで別人のように変わった彼の様子に驚き、私は外した視線を戻してしまった。双子が立ち上がるのを見送った零さんと視線がかち合う。
「話はあとにしよう。Aも言いたいことはたくさんあると思うが、我輩とてそれは同じじゃ。もう少しだけ……傍にいてくれんかのう」
「……狡い」
狡いひとだ。もとより私が零さんの願いを聞き入れないはずがない。それにそんな見たこともない寂しい顔をされたら、私は唇を噛み締めて俯くことしかできない。
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更科(プロフ) - あひる様さん» お返事遅れてしまってごめんなさい。読んでくださる方がいる限りは頑張ってみようと思います。応援ありがとうございます。 (2021年5月28日 23時) (
レス) id: 749f88a822 (このIDを非表示/違反報告)
あひる様 - やばい！物凄く！！！好きですぅううううう！！！頑張ってくださいっ！！！！応援してます！！！ (2021年5月20日 23時) (レス) id: fee7c2866e (このIDを非表示/違反報告)
更科(プロフ) - 姉系チート2号（データ消えちまった成）さん» こんにちは。わざわざコメント頂きありがとうございます！今は更新が難しい状況なのですがきちんと書きたいという思いはありますので、ゆっくりお待ちいただければと思います。 (2020年2月3日 11時) (レス) id: 749f88a822 (このIDを非表示/違反報告)
姉系チート2号（データ消えちまった成）(プロフ) - 達筆な文章に惚れました！無理はしない程度に、更新を楽しみにしています！ (2019年12月17日 13時) (レス) id: 41a0229c91 (このIDを非表示/違反報告)
更科(プロフ) - さくぷらさん» さくぷらさま、コメントありがとうございます！返信が遅くなり申し訳ありません…。儚く透明感のある主人公を目指しておりますので大変光栄なお言葉をありがとうございます。ゆっくりになってしまいますが更新頑張ります！ (2018年3月29日 11時) (レス) id: d6f890f9ad (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：更科 | 作者ホームページ：
作成日時：2017年11月29日 18時
