【あんスタ】革命する騎士と終演の姫君(7)

謝罪とそれから/5 ページ44

______よく来たね。

辺りはしんと静まり返っていた。
頰を緩やかな風が撫で、吹き抜けていく。空は澄み切っていて雲一つない。

そんな屋上で、あんず先輩は一人私を待っていた。

最初に先輩は「これ」と何かを差し出す。見るとそれは、桃色のリボンでラッピングされた袋だった。中には可愛らしいクマの形をしたクッキーが入っている。そしてその袋には、『ごめんね』と書かれたメモが貼り付けられていた。

聞かなくても分かる。これは桃李くんからだ。きっと彼は、一生懸命考えたのだろう。でも直接言えなくて、これを用意したんだ。何だか可愛い。

渡してって頼まれたの、といつも通り平坦な口調で先輩は言った。

＿＿＿＿私が、皆を頼らなかった理由。
それは優しい人たちが私の味方をしてくれたとき、私を陥れることが不可能だと悟ったニナの矛先があんず先輩に向かないようにする為だった。

結果、それは上手く行った。最後までニナはあんず先輩には手を出さなかった。でもその代わりに、私はあんず先輩を沢山不安にさせてしまったことだろう。


ごめんね。


ふと、あんず先輩が言った。いつものさざ波のような声ではなくて、はっきりと響く声。


＿＿＿＿聞いたよ。私のことを守りたいからって皆に秘密で計画を立ててたんでしょう？


喋ったの誰だ。怪しいのは司くんか瀬名先輩だけど、月永先輩も口を滑らせそう。なんだかんだ凛月先輩や鳴上先輩もバラしそうだし……。
でも、重要なのはそこじゃない。先輩がどう思うかだ。

そう身構えていると。約束しよう、と先輩は言った。＿＿私と貴方は同じ人間で、同じ価値がある。だから私の為に自分を犠牲にしようとしないで＿＿。ああ、本当に素敵な人だ。

今まで我慢していた涙が、瞳から零れた。喉の奥から嗚咽が漏れて、しゃくりあげる。
そんな私を、あんず先輩はそっと抱きしめた。


＿＿頑張ったね。だけど、許したくないことは許さなくても良い。許せることは素晴らしいけど、全て許そうとしなくてもいいんだよ＿＿。

そう言って背中を撫でてくれた。その優しさに、一層胸が一杯になる。


でもあんず先輩。私が謝ってくれた皆を許したのは、私が皆のことを大好きだったからです。嘘でも妥協でも罪悪感でも何でもなくて、本当はもう一度大好きな皆と一緒に輝かしいステージを作り上げたかったから。……でも。


「ありがとうございます、あんず先輩」

私がこれからその道を進む為には、もう一つしなくてはいけないことがあるんだ。
そっと先輩から離れ、目元を拭って微笑む。


「私、最後に会わなくちゃいけない人がいるんです」

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