進歩/2 ページ26
「ちょっと、どこ行くノ?」
その日の放課後。朝クラスメイトと会話出来たことが嬉しくて、ルンルンで家に帰ろうとした私を引き止めたのは逆先さんだった。
校門前で待っていた彼は、私を見るなりズンズンと歩いてきたかと思うと片手を引っ掴んだのだ。
「まさかそのまま下校〜、だなんていわないよネェ?零にいさんが待ってるヨ」
くるりと身を翻し、逆先さんは抜け穴を潜ってアイドル科の校舎へと向かう。
「零にいさんモ、ボクじゃなくてあのつきまとってる犬を使えばいいのニ……。別に文句を言うわけじゃないけド」
それは文句では……?手を引かれながら疑問を感じるたけど、言える立場じゃない。黙っていたら、ふと彼が振り返った。
私を射抜くように見るのは、琥珀の双眼。
「君サァ、どうやって零にいさんに取り入ったノ?」
「……は……?」
昨日会ったときとは、その雰囲気が明らかに違っていた。サーチライトのごとき尖った視線が私に注がれる。何故そんな質問をされるのか分からなくて、返す言葉が見つからない。
「零にいさんはあれでかなりのお人好しだかラ、困っている人を見過ごせないだケ。それで勘違いしても無駄だからネ」
念を押すように言われて、私は弾かれたように首を振った。だってそんなの、滅相もない……!
すると逆先さんは「それならいいけド」と疑わしそうな半眼で私を見て、また前方に向き直った。
『……自分ですら分からない自身の気持ちが存在するってこと、君はまだ理解していないんだね』
コンコン、と二回扉をノック。入るヨと声をかけて、逆先さんはアイドル科軽音部室の扉を開いた。
中にいたのは、男子にしては長い黒髪と血よりも紅い瞳を持つ彼、朔間さん一人。今日は起きていたみたいだ、逆先さんの姿を見つけると彼の唇が弧を描く。
「お〜、夏目♪よく来たな〜。座れよ、お菓子食べるか〜?」
「ちょ……っ、頭撫でないデ。零にいさんってたまにおじいちゃんみたいなこと言うよネ……」
入った逆先さんを捕まえて、彼の髪をぐしゃぐしゃに撫でながらいつもの笑顔を見せる朔間さんは、昨日と相変わらず綺麗な顔をしている。
じゃれる二人を蚊帳の外で眺めていたら、ふと朔間さんは私の姿に気づいた。彼は逆先さんから手を離し、私に近づいてきたかと思うと、ぽんと肩に手を置く。
「ちゃんと逃げずに来たみて〜だなぁ?偉い偉い♪」
それからその手を頭に乗せてぽんぽんと叩くものだから、なんだか無性に恥ずかしくなった。
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まめだいふくもち(プロフ) - こたつさん» こたつさん、ご指摘誠にありがとうございます。漫画などでよく見る表現だったのですが、なにか事件が関連していたのですね…。勉強になりました。つきましては、その表現を修正させていただきます。コメントありがとうございました! (2017年10月29日 15時) (レス) id: 8f73a5bd97 (このIDを非表示/違反報告)
こたつ - ドラム缶に東京湾というワードは某事件を連想させるので修正した方が良いのではないでしょうか? (2017年10月29日 9時) (レス) id: ae4fce482d (このIDを非表示/違反報告)
まめだいふくもち(プロフ) - 抹茶粉さん» 抹茶粉さん、コメントありがとうございます!とてもとても嬉しいです…!私もれいさんにプロデュースされたい!という思いから書き始めたので、光栄です笑 (2017年8月2日 22時) (レス) id: 8f73a5bd97 (このIDを非表示/違反報告)
抹茶粉 - 零さんにプロデュースされるなんて夢見たいです…!もう始まりから胸のきゅんきゅんが鳴り止みません!笑 続き楽しみにまってます!更新頑張ってください! (2017年7月26日 16時) (レス) id: 634a139de2 (このIDを非表示/違反報告)
まめだいふくもち(プロフ) - ベリーさん» ベリーさん〜!ご指摘ありがとうございます。修正してまいりましたのでご確認ください。そして、またこのような事態があればお知らせください。 (2017年1月14日 13時) (レス) id: 8f73a5bd97 (このIDを非表示/違反報告)
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