望まれない英雄肆【戦国BASARA】 (ページ17)

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16 槍の又左ページ17

「お客様お客様！困ります！あーっ！困ります！このままディナー直行は困ります！あーっ！あーっ！」

「落ち着け、もう止まってるぞそいつ」

「え？ …ぅわぷっ！？」

熊がその口からエリを離し、エリが地面へと落ちる。

「痛た…うぇ、よだれベトベト…」

しばらく熊と追いかけっこをした後、熊は移動するのををやめた。
止まった場所は、やはりというか。

「…え？ここどこ？」

「金沢城…いや、今は尾山城だったか。兎に角、ここは加賀国、そのど真ん中だ。…そうなんだろ？五郎丸(・・・)」

「五郎丸？」

エリが首を向けると、名を呼ばれた熊が一声吠えた。
「ヒェッ」とエリが悲鳴を上げ、俺の後ろに周る。おい、どさくさに紛れて涎をなすり付けるな。

「そういうあなたは、今は常真という名前でしたか？」

「…利家」

振り返れば好青年…というには少し歳をとっているが、それでもまだ若々しい印象の男が立っていた。
男が褌一丁のせいかもしれない。

「お久しゅうございます、三介殿」

「相も変わらず、そんな格好なんだな」

横のエリが俺と利家の顔を見比べるように交互に見る。

「…えっと、積もる話なら私、離れます？」

「ん？いや…いや、そうだな。利家」

「では、五郎丸に案内を頼もう」

「えっ」

名前を呼ばれた熊がまた一声吠え、エリに近づく。

「や、その、一々運ばなくても、案内してくれれば自分で歩くというか」

そんなエリのか細い声は五郎丸の気を留めるには小さ過ぎたか、構わず五郎丸はエリの首根っこを捕まえた。

「あぁぁあ…大丈夫？これ巣穴とかに連れてかれない？」

「大丈夫大丈夫」

五郎丸とエリを見送ると、利家が笑う。

「なるほど、三介殿はああいう娘が好みか？」

「らしくない事を言うな、歳か？」

秀満と同じような事を言ってくる利家。爺どもは男女を揶揄いたくなるらしい。

「そうかもしれませんな…当主は慶次に譲ってしまったし、それがしの目も広くなる一方で。それに、あの大うつけがとうとう身を固めたとなれば気にもなるという…」

「固めてない。あいつを連れてきたのは…いや、もういい…」

なんだかどんな事を言っても言い訳じみて聞こえる気がする。
というか、うつけってお前が言うか。

「…と、世間話が本命じゃないんだろ？」

利家が俺を呼び寄せた理由。徳川の同盟経由で成立した話。
俺達の新生織田軍についてや、あいつの…踏み込んだ話。

正直に言えば、俺はどんな顔をして利家に会えばいいか──

「まさか。これ(・・)が本命だぞ？」

………。

「えぇ…」