エピソード179 ページ41
私はここそとばかりに、炎兄の売り込みをすることに決めた。
けれども。
蝶「今は、そうなんでしょうねぇ。ウフフ、でもね……、あなたはまだ若いもの? 経験を積めば、あの炎帝をも凌ぐ才を発揮する可能性があるわぁ。私は、A殿こそ、奇貨居くべし……そう考えることにしたのよ」
もう、いつもの蝶凌さんに戻っていた。
ほぅ、と色っぽいため息をつきながら、左手を頬に添え、艶やかに微笑まれた。
蝶「――だから、私を失望させないで頂戴ね。一つだけ覚えておいて頂戴? ……聡明なあなたなら分かっているでしょうけど。戦だけでは国は成り立たない。……あの皇子の導く未来をあなたが望むのだとしても。優秀な執政官は必ず必要よ」
「……それは理解しておりますわ」
だから、今日まで勉強してきたのだ。
戦う才がない私が、炎兄の役に立つために。
(――やっぱり、この人には全て見抜かれている)
なんとなく、そんな確信をもった。
――その時。
???「父上!」
下から孝里殿の声が聞こえた。
孝「籠を降ろしてください」
蝶「あぁ、お茶が来たようね」
そう呟いて、蝶凌殿立ち上がる。
そのまま部屋の角に行くと、そこから縄を巻いて固定した籠をもって、梯子の降り口に歩いていく。
縄だけをもって、ゆっくりと籠を降ろしていくのが見えた。
次に籠が戻ってきたとき、そこには温かな湯気を上げる茶器があった。
蝶「さぁ! 息抜きの時間よぉ。今日は菊花茶を用意させたわぁ」
そういって、彼は慣れた手つきでお茶を入れてくれた。
菊の仄かに青臭く……でも、それ以上に高貴な品のある薫りが鼻孔をくすぐる。
「いただきます」
私はおとなしく茶碗を受け取って、お茶を飲んだ。
「……美味しい! すごく美味しいです」
素直に感想を言うと、
「うふふ、そうでしょう!」
満足げに頷く蝶凌さんがいた。
そのあとは二人して、月を見ながらお茶の話で盛り上がった。
……その夜、政治の話はもう一切出てこなかった。
蝶凌さんがあまりにも気さくだったことに驚きはしたけれど。
突然招待された夜の会合は、拍子抜けするほど穏やかに過ぎていった。
*
部屋に戻ってから気づいたけれど。
私は、その晩、初めて蝶凌さんに名前を呼ばれていた。
――練Aと。
それこそが、彼が私を認めてくれた証だったのかもしれない、ふと思った。
そして、翌日からは本格的な雪の移送作業が進められることとなった。
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一花(プロフ) - キャンディさん» コメント有難うございます。亀更新の上、返信まで遅くなり、申し訳ありません(汗) 面白いと言ってくださり嬉しいです。この作品は、連載作品の中で恐らく一番、趣味全開で書いてます。更新頻度が都合で減ってますが、宜しければ今後もお付き合い下さると幸せです! (2014年10月5日 13時) (レス) id: efaaeba1ca (このIDを非表示/違反報告)
キャンディ - とても面白い話ですね!!楽しく読ましてもらっています。これからも更新頑張ってください!応援しています!! (2014年9月23日 14時) (レス) id: 5d912ff5a3 (このIDを非表示/違反報告)
一花(プロフ) - グーミリアさん» ありがとうございます! なんだか、書いていると話の堂々巡りをしている気もしますが(汗) 楽しんでいただけるように、お話も少しずつ、前に進めますので、これからも宜しくお願い致します!(^-^) (2014年9月14日 18時) (レス) id: efaaeba1ca (このIDを非表示/違反報告)
グーミリア - はい!とっても楽しみにしています! (2014年9月11日 21時) (レス) id: 9d3eb75538 (このIDを非表示/違反報告)
一花(プロフ) - グーミリアさん» コメント有難うございます! 作品を良いと仰ってくださり、感謝します。そして……更新滞っていてすみません(滝汗) オフの諸事情で、更新頻度が減ってますが、途中放棄はしませんので! 今までより、頻度はぐっと下がりますが続けますので、よろしくお願いします! (2014年8月31日 12時) (レス) id: efaaeba1ca (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:一花 | 作成日時:2014年7月25日 20時