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「あー、Aー?」
その声にはっと我に返ると、声の主は不機嫌そうに眉間にしわをつくっていた。

「やっぱりこうなった」

凛月は深いため息をついて、テーブルの向かい側に腰掛けた。黒い上着の前裾は腰のあたりで切り落とされ、後ろだけが長い。最近の流行りなのか、椅子やテーブルは艶やかな黒色で、クッションや装飾が赤色という、少し異国調だった。

「でもAは止めたとしても行くって言って聞かなかっただろうしね。仕方ないといえば仕方ない」

「あの人はどうなったの?」

Aはまたブルーベリーのゼリーのような瞳を凛月に向けた。

ああ、やめてよね。

その瞳が一番残酷なんだから。

「あの人、ってあの牢屋に入れられた女のこと? 命令通り牢の中で縛られてるはずだけど」

まさか見に行くなんて言い出すのでは、と凛月は身構えたが、流石にそのようなことは言わなかった。

「処刑待ちということ?」

「そうだね」

凛月はだんだん答えるのが面倒になってきた。

わかっているなら聞かないでほしい。夕食後の話題として相応しくはないだろう。心に埃が被ってきた凛月にだって命あるものを殺して喜ぶ趣味はない。

そんなことより、俺の名推理でも褒めればいいのに。

女は雇い主を殺した罪で処刑、子供たちはもうこの村では生きられないので『修道院』に送るのと、Aには教えてやる気はないがあのぼこぼこにされていた男も処刑だ。

なぜAに教えてやらないかというと、綺麗で無垢な少女のくせにAにはあの女の気持ちだけはわかるからだ。教えたら心を痛めるに決まっている。


無知は残酷だ。それでいて一番綺麗だ。

Aには重大な欠点があった。
醜い感情を持っていないことだ。清すぎるその心は、ほかの全てのものがくすんで見えるくらいに眩しい。

それでいて子犬のように好奇心旺盛だから、色々なことを知りたがる。清い水は汚れを濯ぐためにあると信じているのだ。

今日だってどうせ、凛月に黙って領内の『ルール』を読み漁ったんだろう。まあこのお転婆は歳を重ねれば落ち着いていく筈だが。

凛月が彼女を残酷な天使だと形容する理由は以上の2つだ。

凛月が兄まで使って結婚を申し入れたのは、Aのおいさきが見えるようだったからだ。

ここに来なければ、きっと彼女は人間になれずに、ただただ綺麗なだけだっただろう。

人の子に生まれたのに、人間になれず、天使の役目も果たせないままに生きていくなんてあまりにも不憫だ。

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さなえ(プロフ) - フラッペさん» コメントありがとうございます。お褒めに預かり光栄です。細かいところにこだわって書いてみました。 (2018年8月18日 16時) (レス) id: b33fb32224 (このIDを非表示/違反報告)
フラッペ - お話の内容が濃くて私的には面白い物語でした。こういう細かな文章が好きで、なんか一つ一つに感情がこもっているというか……まぁ、とにかく良い話でした。 (2018年8月16日 1時) (レス) id: 0c5a8c4f79 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:さなえ@Love伊織 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/sanaeHome/  
作成日時:2017年7月29日 16時

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