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子供から母親を奪うのは不憫だ。などと凛月に人間らしい情が湧きかけたが、さっと振り払った。
ちらりと後ろの女神様に視線をやると、浮世離れした紫色のサファイアのような瞳が事の成り行きを見守っていた。
薔薇の花びらのような唇は微笑の色を添えている。そこに可憐な少女の姿はない。
すぐそこまで、夜が近づいている。
「して、折角だから死ぬ前に聞いてあげるけど、あんたの目的は何? あの男にそれだけの『価値』があったってことだよね」
『ルール』を冒してまで貶めたい男ねえ。と凛月は冷ややかに笑った。
俺はAにとって『そういう』『価値』のある男だろうか。
恨み、妬み、醜い感情があるからこそ、人の子は魅力的なのだ。
要するに、この女は子供たちに偽の証言をさせてこの男を陥れたというくだらない話だ。
村人も子供の話を鵜呑みにして男を捕らえたのか。或いは日ごろ溜まった鬱憤で目が曇ったのか。
ああ愚かだ。
他人には疑い深いくせに、己の信じたことは正しいと言って引っこめない。だってそれが信じるっていうことだから。
ねえ、女神様もそう思うでしょう?
女は、それは領主としての命令か、朔間凛月個人の興味かと問うた。
凛月が朔間凛月個人の興味だと答えると、女はそれなら話したくありません、と言った。
というのも、彼女があの男を愛していたからだ。それが分かっただけで、彼女の話したくない、というのは十分に回答になっている。
「ふふ、ふふふ、愚かな人間のくせに、領主に口答えするんだねえ」
女の後ろで縄を掴んでいるネズミのような男のほうがぶるりと身体を震わせた。臆病な性分のようだ。
「とはいえ、あんたの言うことは全くその通り。俺も別にあんたの事情に踏み込む気はないしね。もういいよ、その女は暫く牢に閉じ込めておきなさい」
凛月は神話に登場する女神のような穏やかな笑みを浮かべ、そう命じた。
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さなえ(プロフ) - フラッペさん» コメントありがとうございます。お褒めに預かり光栄です。細かいところにこだわって書いてみました。 (2018年8月18日 16時) (レス) id: b33fb32224 (このIDを非表示/違反報告)
フラッペ - お話の内容が濃くて私的には面白い物語でした。こういう細かな文章が好きで、なんか一つ一つに感情がこもっているというか……まぁ、とにかく良い話でした。 (2018年8月16日 1時) (レス) id: 0c5a8c4f79 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さなえ@Love伊織 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/sanaeHome/
作成日時:2017年7月29日 16時