六試合 ページ8
*
坂田さんの一件から数日後、私はいつもどうり出勤していた。
もう若くない店長が切り盛りするこのお店は、客入りも少ないので、従業員は私と店長あともう一人の男の人だけである。
味は確かだと思われるので、一部には『神の酒栄場』などと囁かれているようだが、残念ながら客足が増えることはなさそうだ。
イコール、神だとか酒栄場だとかどこの誰がつけたのか知らないネーミングセンスの欠片もない呼ばわれは浸透していないみたいだから安心なのか？
まぁそのお陰か、ゆっくり自由に勤務できるし一握りの常連さん達のナイス働きで収入は安定。
案外気に入っている仕事である。
今日はもう一人の子はお休みなので、カウンターに出ているのは私だけ。
することもなく、ただぼ〜っと立っている。
バーテンダーといえば、お酒をブレンドしたりお客の話を横目で聞いたりが毎日なイメージがあるかもしれないが、根本のお客がいなければ何も始まらない。
お客が増えるのも嫌だけど少なすぎるのも結構辛いな。暇すぎて死にそう。
店長はバックでパソコンとにらめっこ中で話し相手もいないし。
『…ふぁ、』
もう何度目かわからない欠伸が漏れた瞬間、
カランカラン…
リズムを刻む鈴の音とともにお店の扉が開かれた。
『いらっしゃいませ。折原さん。』
入ってきたのは、この店の数少ない常連さんの折原さんという方。
以前、サラリーマンやってますーと仰っていたとおり、黒のシーツに整えられたタイは容顔綺麗な折原さんに大変様になっている。
「こんばんわ。Aちゃん。」
訛りの入った優しく柔らかい声で笑いかけ、椅子に腰掛ける折原さん。
『折原さん、今日はいつもより少し遅めですね。』
「せやで。今日は遅くなってなぁ」
あ、てか折原さん呼びやめよって言うたやん！と付け足したあとキリッとした身格好に不似合いに、小さく息を吐いたあとテーブルに頭をおとす。
背筋はだらんと曲がって、会社では恐らく見せないであろう彼の姿に思わず微笑んでしまう。
両腕を交差し、その上に頭をぐだりと乗せ私をみる折原さん。
このポーズに入ったら必ず始まること、
「あんなぁ、またあいつがさぁ…」
奥から椅子をもう一つ運び、彼お気に入りのカクテルとともに彼の前に腰掛けた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 358人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
さざんか(プロフ) - 終わり！？！？まだまだこれからですよ作者様……！！！うらたさんも志麻さんも登場してないですし、なによりこんないい所で終わるなんて生殺しじゃないですか！！！！続き待ってますから!!!!!!!!!!!😭😭 (2023年1月21日 0時) (
レス) @page11 id: 20c7caba78 (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ - 終わってます！戻ってきてください！続き楽しみに待ってます！ (2021年9月17日 1時) (レス) id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
よ(プロフ) - 瑠珂さん» コメントありがとうございます。瑠珂様のお言葉で創作意欲が上昇致しました！嬉しいコメントありがとうございます！今後ともこの物語をどうぞよろしくお願い致します。 (2020年2月17日 16時) (レス) id: 4992fa2252 (このIDを非表示/違反報告)
瑠珂(プロフ) - 更新ありがとうございます！続き読むのがめっちゃ楽しみです！！ (2020年2月17日 14時) (レス) id: da9dad6d7f (このIDを非表示/違反報告)
よ(プロフ) - ちぃさん» コメントありがとうございます。好きといっていただき嬉しい限りです！このお話を好きになっていただきありがとうございます。これからもよろしくお願い致します！ (2019年12月1日 10時) (レス) id: 4992fa2252 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：よんり | 作成日時：2019年11月24日 10時
