ゝ ページ40
「四月一日」
息をのむ。
……自嘲する。
冨岡の声だった。乱戦の中を抜けてきたらしく、声は疲労に掠れている。でもそれだけ。怪我の痛みに耐えるような声ではない。
あそこにいるのは私だ。アイツらと戦っているのは、私。
それなのに、足止めも叶わない。
襖の向こうで、鉄のぶつかる激しい音が聞こえる。
耳が痛くて俯いた。
「あんな剣はままごとだ」
冨岡が言う。
ああそうだよ。あんなもの、……
「姿だけだ。あんなものは、あなたの剣ではない」
……一瞬。意味が分からなくて、襖を見つめる。
この向こうにいる冨岡がどんな顔をしているのか分からなかった。だって、聞いたことのない声だった。
話し下手な男の、飾り気のない言葉が突き刺さる。
それは研ぎ澄まされた一振のように。
「……くだらない」
「くだる」
「私の剣に何がある?」
育手も、継子もいない。隔絶だけが横たわる技。鬼殺隊、という、受け継ぐことの美しさを知りながら、ひとりよがりに編み出された剣。
私だけのための強さ。
「何もかも」
「ッ」
「技術ではない。あなたの、……言葉や、志だ」
そんなものがあったら、どんなにか。
「……何にも知らないで、よくもまあ!」
怒鳴りつけたときだった。
バン!と襖が揺れる。誰かがぶつかったのだと分かる。
「だから」
時透だと、気づくのが遅れた。
こんなにハッキリとものを言うのを、初めて聞いた。
その声に滲んだ怒りの熱に怯む。
「知りたくてこんなとこまで来たんだよ、馬鹿」
「〜〜ッ……うるさい!うるさいうるさいっ!」
「うるさいのはそっちでしょ!子どもみたいに騒がないでよ!」
「と、時透」
「冨岡さんは引っ込んでて!」
「あっ。す、すまない……」
「話してどうなるっ。知ってどうする?どうにもならないだろ!」
私は人殺しだ。
鬼と変わらない、罪深いこの身を、いまさら──
「アンタ、気づいてねえのかァ」
──襖に、澄んだ緑色の刀が突き刺さった。
「……なにを、」
「そうやって閉じ籠って、隣に弟がいたんだろ。親が見えたっつーことは、隙間から外が見えてたァ。アンタは開く側にいたってこった」
「それが、どう」
「おかしいだろ」
「弟を突き出せるわけねェんだよ」
……思い出したくもない記憶を、手繰る。
──潰れて、裂かれて、ぐちゃぐちゃになった両親
暗くて狭い押し入れ
浅い呼吸
埃と血の臭い
隣で震える、おとうと
突き飛ばされる幼い体は、誰のもの?
待って、と悲鳴を上げたのは、誰?
走り出したのはどうして──
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アホ毛50%(プロフ) - 玲さん» マジで有難いです……やる気出ます……がんばります……(ToT) (2022年10月7日 20時) (レス) id: a42aa73c2c (このIDを非表示/違反報告)
玲(プロフ) - どうかお身体にはお気をつけてご無理はせずに更新、活動していただけましたらと思います……!ゆっくりのんびり待っております。想像以上に長くなってしまいすみません……!!長文乱文等失礼しました。応援しております……! (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
玲(プロフ) - 喉からどこかの鳥の声でも発してしまいそうでした。続編……書いてくださる…………?夢でも見ているようです。この幸せを沼鬼に負けないくらいの気持ちと勢いを持ってギリギリ噛み締めます。(?)(申し訳ありません次で終わります) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
玲(プロフ) - もう超大好き!!!となっていたというか今も勿論のことなっています書いてくださりありがとうございます。 そうして今もまた読み直していたら、文章が変わっている……!?と気付き更新日時を確認しましてア゜〜〜!!!と大歓喜のあまり(続) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
玲(プロフ) - コメント失礼致します。何回も何回も読み直し、そのたびこの作品は本当に面白いなあ、と思い、読了すると大きすぎる満足感と言い表し難いほどの感動が一気に込み上げてきまして、その感覚は頻繁に感じるものではなかったものですから、本当にこの作品はもう……(続) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
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