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僕はそれだけが気がかりでした ページ41

 
 
 襖が蠢き、不死川の刀を吐き出す。
 そうして鉄の扉へ姿を変える。

「余計なことを」

 見ると、勇だ。Aの姿をとった彼のほっそりとした指先が翳され、それだけで世界が歪むのである。
 一閃。扉の前にいた三人は、退かざるをえない。間違いなく彼女の剣術だ。それを鬼の再生力と体力と膂力とで振るっている。

 ……勝ちのイメージは浮かばない。


「……勇。おまえ、私の」
「はあ、(きおく)ですね。弄りましたが?」

 宇髄の二刀を流しながら、勇はめんどくさそうに言った。

 無意識の深層にて。ありもしない記憶を根付かせるは些か難しいが、多少の齟齬を生むくらいならどうってことはない。
 簡単でしたよ、と笑う。その美貌が愉快そうに歪む。
 怒りで振るわれた煉獄の切っ先から逃れる。身のこなしは軽やかだ。躊躇いがなくて、残酷で、強かった。それはもしかしたらAの目指した姿かもしれなかった。

「そろそろ嫌ンなってきましたねえ」

 一通り蹴散らして、ため息まじりに言った。
 指先で頭を掻く。どうしようかなぁ、と悩む仕草は、けれど見せかけだけだった。

「元から姉さんに"お返し"して差し上げたかっただけなんですよ、僕ァ。ここらでやめにしません?」
「鬼を見逃す道理があるか」
「僕が見逃してさしあげるってんです。分かんないなぁ」

 伊黒の剣筋も、見切る見切らぬ以前に届かない。

「姉さんだけ殺せればいいンですよ。どーせ近々死ぬような女をひとり差し出せば、あなた方を帰してやるってンです」

 しのぶの突きをかろく躱し、ピンと伸ばされた細腕を、踊るように取る。

「迷う必要ないでしょ、あんな裏切り者……」

 吐き捨てる。それ憎々しげに、けれど面白げに。
 このときの皮肉っぽい笑い方だけが、ようやくAの面影を感じさせた。声も顔も同じなのに、ずっと別人だと感じていた。だから切っ先が迷わなかった。

 あの人は、もっと………

「……四月一日Aは、」
「ウン?」


私の判断で(・・・・・)、二年間の療養をしていました」


 しのぶが微笑んだ。
 だから、逃げてなんていないのだ、と。勇の詰りを蹴り飛ばすみたいに。Aの丸まった背中を撫でるみたいに。

「…つまらない冗談ですね」
「あら、どうしてそう思うんです?」
「姉のことなんて、なにも知らなかったクセに」
「知っていたかもしれませんよ」

 だって、ずっと近くにいた。
 Aはずっと、鬼殺の剣士として生きていた。

 ……そばへ、行こうと思えば、できた。
 勇気があれば。
 あの人をひとりにすることなんてなかった。

ゝ→←ゝ



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アホ毛50%(プロフ) - 玲さん» マジで有難いです……やる気出ます……がんばります……(ToT) (2022年10月7日 20時) (レス) id: a42aa73c2c (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - どうかお身体にはお気をつけてご無理はせずに更新、活動していただけましたらと思います……!ゆっくりのんびり待っております。想像以上に長くなってしまいすみません……!!長文乱文等失礼しました。応援しております……! (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 喉からどこかの鳥の声でも発してしまいそうでした。続編……書いてくださる…………?夢でも見ているようです。この幸せを沼鬼に負けないくらいの気持ちと勢いを持ってギリギリ噛み締めます。(?)(申し訳ありません次で終わります) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - もう超大好き!!!となっていたというか今も勿論のことなっています書いてくださりありがとうございます。 そうして今もまた読み直していたら、文章が変わっている……!?と気付き更新日時を確認しましてア゜〜〜!!!と大歓喜のあまり(続) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - コメント失礼致します。何回も何回も読み直し、そのたびこの作品は本当に面白いなあ、と思い、読了すると大きすぎる満足感と言い表し難いほどの感動が一気に込み上げてきまして、その感覚は頻繁に感じるものではなかったものですから、本当にこの作品はもう……(続) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アホ毛50% | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年10月29日 0時

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